いざ出陣!


 ぐだぐだ考えても状況は変わらない。行かなくては駄目なんだ。他に俺の居場所はないんだから。深い溜息を吐けば、今になって荷物が何倍も重くなった気がした。無表情で分かりにくいかもしれないが、足取りも重く、纏う空気は負のものばかりだ。
 暫く歩いていくと寮が見えてきた。流石不良の住処、寮もボロボロだ。しかし落書きが酷いな。……先程から見える藤堂って言うのはだから誰だよ。こんなに悪口書かれてどんだけ嫌われてるんだ。少し同情するぞ。 中に入ると寮長はいないらしかった。えーと、これってもう入っていいんだよな?
 歩き始めた瞬間ズボンのポケットが震えた。びくっとしてポケットを探ると携帯だった。すっかり入れていたのを忘れていた。ポケットから出して表示された名前を見る。

「誰だよ……、って実利か」

 実利というのは中央区の友人で、爽やかなイケメンだ。人当たりもよく、成績も結構上位だが心配性で過保護なところがある。それは過剰なところがあり、はっきり言って面倒だっ…いや、何でもない。
 メールかと開いて見ると着信だった。面倒ながらも通話ボタンを押すといきなり大声が聞こえてきた。

『お前、東に移動って、何の冗談だよ!?』
「実利、落ち着け。先生に聞いたのか?」
『何でそんなに冷静なんだっ。しかも俺に一言言えよ! 他の奴等にだって…』
「あー、悪い。ちょっと俺今急いでるから。また後で電話する」
『ちょ、ま……!』

 静止の声を無視して通話を切る。また振動が来ると面倒なので実利には悪いが電源を落とした。

「ええと、俺は……三十七号室か」

 手元の紙で部屋番号を確認して一つ一つの部屋番号を見ていく。寮内には誰一人としていなかった。ここまでいないと不気味だな。不良でも帰省するのかな…。何となく廊下でヤンキー座りしながら話してるイメージがある。
 途中ちらっと噂の藤堂の名前を見つけたが、まあ今はそれは関係ない。ちょっと気になったのは否定しないが。
 漸く部屋番号をみつけ、名前のプレートを見る。基本二人部屋なのでルームメイトが気になっての行動だった。見た瞬間俺は固まる。一つは俺。そしてもう一つは。

「田中悠木……」

 俺が知るその名前は、俺がここに移された原因となった奴だった。

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