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「し、しかし…」
「俺を誰だと思ってるんですか、先生」

 にやり。今度はちゃんと笑えることが出来た。二人だけしかいない教室は静まり返る。えーと…俺滑っちゃった? KY? KYってもう死語? いやそんなのどうでもいい。
 何も言わない担任に慌てるが、その心配も無に等しかった。笑っている。

「っははは、そうだね。田中は他に比べて安全とは言え、曲者揃いの中央でリーダーだったし」
「別にリーダーとかなってたつもりはないですけど。確かに中央は中々意地悪い人間が揃ってましたね」
「…もかしたら、案外生き残れちゃうかもしれないな」

 苦笑する担任に、俺はまたもにやりと笑う。
何で俺にやりとするのは出来るんだろう。謎だ。自分のことだけど。

「鼠だって猫に勝ちますから」

 担任はきょとんとすると、また苦笑した。

「猫が何匹もいたら鼠に勝ち目は無いけどね」
「……ですよねー」

 担任が苦笑しながら謝るのを聞きながら、さてどうしようかと考える。鼠でも猫に勝てると強がりを言ったが、それは物の例えである。本当に鼠が猫に勝てるわけが無いし(某アニメでもあるまいし)、まず例えているものは猫のような可愛いものではない。言うなれば猛獣だ。ライオンだ。狼だ。その中で生きていくとなると、やはり知恵が必要になる。……必要なものが何一つ足りない俺は一体どうしよう。

「田中?」
「あ、すいません。何ですか?」
「いや、寮も移ってもらわなくては駄目なんだが……大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ。こうなったらタイタニックに乗るような気分で挑みます」
「それ沈むよ…」

 なんだか燃えてきた。東が何だ殴り合いが何だ。やってやろうじゃないか。待ってろよ東! ――これが夏休み終盤、某日の会話だった。

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