対面


「あ、あの、こ、国分寺先輩。最初約束していたのはこいつらとなので、えっと…」
「――ま、俺様は別にいいぜ、それでも。じゃ、下僕でも探して暇つぶすかな」
「待て」

 ひらひらと手を降りながら去っていこうとした国分寺先輩の背中に向けて、東谷が言葉を発する。その声はいつもの東谷で、どうやら少しは落ち着いたようだ。そのことに安堵する。……しかし、一体何を言うつもりだろうか? 少しハラハラとしながら東谷と国分寺先輩を交互に見る。最後に、実利を見ると、彼は苦笑していた。

「いつか絶対、お前を殴るから」
「……明日の天気は何か、程度には期待しておくぜ」

 何その微妙な期待。なんとも反応しにくいその言葉だ。東谷を見ると口端をひくひくと引き攣らせていた。蟀谷には青筋が浮かんでいる。それをニヤニヤと見下ろす国分寺先輩は絶対に確信犯だ…。
 それにしても、ハルがご愁傷様すぎるんですけど。彼の存在は暇つぶし程度なのか、先輩にとっては。何だか国分寺先輩のことを意識しているハルが虚しいな…。

「じゃあな」

 最後に口角を上げて笑い、俺の頭を軽く一度叩いてから、今度こそ去って行く。ここには微妙な空気だけが残った。…えーと、まず東谷、その怖い顔を元に戻してくれないかい…。

「よし、じゃあ行くか!」

 この微妙な空気を拭い去ろうとしたのか、至極明るい声で実利が言った。東谷は数秒後、静かに頷く。その時にはもう、いつものクールな表情に戻っていた。よくやった実利!
 実利に感謝しながら、俺も頷いた。








 ――翌日。気持ちがいい程眩しい朝日を背にして、うーんと伸び上がる。やっぱり朝は背伸びだな。これやらないと朝だって気がしない。…俺だけか?
 ふあ、と一つ欠伸を漏らして、乱れた髪を手櫛で粗方整える。その時、机に置いてある携帯が震えた。ベッドの横の、ランプスタンドに備え付けられているデジタル時計には、六時と表示されている。こんな時間に、一体誰なんだ。面倒だと思いながら、もしかしたら大事な用事なのかもしれない、とベッドから出て携帯を手に取る。昨日登録した谷屋先輩の名前が表示されていた。……うん、なんだか嫌な予感だ。

「おはよう、ジョン」
「は? は、はあ、おはようございます」

 そういえばジョンと呼ぶとか言ってたな…。忘れていた、完璧に。

「何だ? 声が嗄れているぞ。もしかして今起きたか?」
「あー、はい、数分前に。何か用事ですか?」
「ああ、改めて、昨日は有り難うな。それで、自己紹介をすると言っていただろう。だから今日の昼に体育館に来てほしいんだ、田中と一緒にな。どうだ?」
「俺は大丈夫ですけど…。ハルにも訊いてみます」
「頼んだ。じゃあ訊いたら電話してくれるか?」

 その言葉に了承し、通話を切る。

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