謝罪


 急いで東谷の部屋兼元俺の部屋に行った俺は、爽やかな笑顔の実利に迎えられた。それに数秒固まったが、目が早く入れと物語っていたので大人しく部屋に上がる。
 リビングにはソファーに鎮座している東谷がいた。無表情にこっちを見ている。  

「と、とーや」
「……あ?」

 恐る恐る声を掛けてみると、声に濁点でも付いているような声が返ってきた。こ、怖いんですけど。
 乾いた笑みを浮かべると、その時肩をポン、と叩かれた。振り向くと、相変わらず笑顔の実利がいる。

「さて、何か言うことはないか? 結城」
「な、なんのことやら」
「あ?」
「連絡しなくてすみませんでした」

 小さい声で謝ると、途端に笑顔は般若へと変わる。ヤバイと思った瞬間にはもう遅く、頭をガツンと拳で殴られた。い、いってー!

「お前、分かってんのか! 俺たちがどれだけ心配したと思ってやがる!」
「すっ、スイマセンデシタ」
「声が小さい!」
「すいませんでしたごめんなさい!」
「結城、無事だからいいけどな、お前、取り返しのないことになってたらどうしたつもりだ」

 東谷が静かな声で俺を戒めた。実利はいつものことだけど、東谷がこんなに怒っている姿を見るのは初めてだ。貴重だ、写メりたい。そんなことをした日には、二度とお天道様の下を歩けないかもしれないから絶対しないけど。

「なあ、何でお前、俺たちに何も言わなかった?」
「いや、それは」
「俺たち、友達じゃないのかよ」

 その言葉にぎくりと体を硬直させた。

「…ほ、本当にごめん」

 何でそんな、――泣きそうな顔してんだよ。俺はそんな実利の瞳をしっかりと見つめて謝る。

「……俺も、頭ごなしに怒鳴って、悪かった」

 実利は顔を少しだけ弛ませて言った。その横で東谷が、納得してない顔だったが、渋々というように溜息を吐いた。

「でも、ちゃんと説明してくれるんだよな?」
「ああ、それは、うん。ちゃんと言うよ」

 斯く斯く然々――じゃないけど、余分なとこは省いて、粗方説明をした。説明している間、実利たちの顔は顰められたままで(それどころか皺は増えていく一方です、ええ)、東谷は舌打ちやら暴言(暴言にも限度があると思うんだ…)を吐いていて、俺は始終びくびくしていた。お前ら、十分東でもやっていけるんじゃないかな…ははは。って現実逃避をするな、俺!

「国分寺虎、か」
「知ってるのか?」
「ああ、東だけでなく全区で有名だ」

 東谷の発言に瞠目する。俺そんなに疎かったのか。……でも、美形だし、性格はあれだし、東の頂点にいる人だし、有名なのは当たり前なんだろう。ただ、中央区でも有名、というか実利たちが知っていたことが気に食わない。教えてくれたっていいだろう。

「兎に角、油断はすんじゃねえぞ、分かってんのか馬鹿、早く死ね」
「あぁ、気をつけ……って、今さらっと酷い発言したよな!? 死ねって何!?」

 東谷に食いかかってみれば、奴はにやりと笑った。くそ、格好いいじゃねえか馬鹿野郎。……別に嫉妬じゃないぞ!

「あ、そうだ。東寮って俺たち出入りしていいのか?」
「え、あー、どうだろ。いいんじゃないか?」

 俺も普通にここに入ってるしな、と笑えば東谷は不貞腐れた樣にそっぽを向いて小さく呟いた。

「ここはお前の部屋だろ。それはいつでも変わんねえよ。ばぁーか」

prev | next


back main top 
しおりを挟む

37/43