再び体育館へ


(side:結城)


「ごっめーん、おまた!」

 浦田という男(先輩だろうか? 雰囲気はそれっぽいけど)が去って行ってから暫くして八橋先生が戻ってきた。何でそんなに軽いんだよ! こっちは怖い思いしたりずっと荷物持ってて腕が痛くなったりしたのに!

「うはははは、転んで気ィ失ってたよ! まいっちんぐ☆」
「……じゃあ行きますか」

 無駄にテンション高いんだけど。でももう既に慣れてしまった。……うん、鳴れって怖いな。
 俺が白い目で八橋先生を見遣ると、ショックを受けたように体を仰け反らせた。オーバーリアクション過ぎるんですけど。

「ががーん! 何その薄いリアクション! しかもすっごい冷めた目してるし!?」
「そんなこと無いですあははは」
「超棒読みなんだけど!?」

 しくしくと泣き真似をする八橋先生をもう一度白い目で見てから、溜息を吐く。この先生一体何歳なんだろう。
 見た目は若いから……――と考えていたら、八橋先生が泣き真似を止めたようで、俺から荷物を半分取った。今まで重かったのがいきなり軽くなり、少しバランスが崩れる。体制を整えると、明るい雰囲気から一変して、真剣な表情になり、俺は固まる。
 な、何だ…?

「ところで、さ。誰かに会ったり話したり、とかしてないよね?」
「……え、あ、――は、はい」

 浦田という凄い男前な不良に会いました。正直にそう言おうとしたが、何だか先生の笑顔が怖くて、気がついたら首を縦に振っていた。

「そっかそっか。ならいいやっ、じゃあれっつらごー!」

 腕を上に突き上げた八橋先生に先程の真剣な面影など全くなかった。ほ、と安堵の息を吐くと、少し汗の滲み出た手でDVDをしっかり握り締めた。






「やっほーい! 皆元気かにゃー?」
「……げ」

 誰かが酷く嫌そうに呟いたのが聞こえた。はあ、と溜息を吐いている奴もいる。理由はこのテンションなんだろうけど、ここまであからさまだと何だか少し可哀相だ。

「あんた何しにきたんですか。早く帰ってください。寧ろ土に還れ」
「うげーっ! またうざいのがきやがった!」

 ちょっ、土に還れとか酷すぎる! 俺が言われたら間違い無く心が折れるよ! それはもう細い枝のようにポキリとね!
 しかし、これを気にもしていないって、どんだけポジティブなんだよ八橋先生!

「あの人はテンションは高いがいい奴じゃけえ」
「どあっ!? っあ、は、はい」

 唐島先輩がどこからともなく颯爽と現れて、ゆったりと喋りかけてきた。俺は急に声を掛けてきたことに驚き、変な声を上げてしまった。
 唐島先輩はそう言うけれど、唐島先輩含めて今日知り合った人のことを、まだ完全に"いい人"と言うことはできない。所詮、俺はこの人たちにとって他人、だから(ハルはまだ認められるかもしれないけれど。喧嘩できる的な意味で)。

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