友人の心境


(side:実利)

「まだ結城から連絡はない…か」
「あいつ何をやっているんだ、全く…」

 はあ、と真向かいで溜息を吐くのは金澤だ。呆れとも取れるそれは、間違いなく結城の身を案じる言葉だ。先程から不安そうに瞳を泳がしているのは、動揺している時の癖だと結城から聞いたことがある。
 まあ、俺も人のことを言えるほど落ち着いてはいないが。きっと金澤からみれば俺の顔は真っ青だろう。
 東の奴らは頭が可笑しい、という噂をよく聞く。実際に対峙して話したこともないから真実は分からないけど。もしかしたら言うほどおかしくないのかもしれないし、逆も然りだ。そんな未知の場所へと一人向かう、ビビリな結城の心情は手に取るように分かる。結城の立場が俺であったとしたら、不登校どころか退学したくなるに違いない。だからこそ、心配で堪らないのだ。

「こうなったら乗り込むか…」
「待て、早まるな金澤!」
「待ってられるか! 結城は、あいつを東の奴らなどに渡すわけはいかない! お前、もしものことがあったら…」

 どうするつもりだよ、と真っ青になりながら尻すぼみする言葉。乗り込みたい? 俺だって本当はそうしたい。そして結城を連れ戻したい。だが、俺たちがそうしたところで、あいつは喜ぶのだろうか? 答えは限りなく否に近い気がする。それは、金澤も分かっているだろう。一番あいつの傍にいた金澤には、きっと中央区の誰よりも。だからこそ、何も言わずに去っていった結城にも腹を立てている。勿論俺だってそうだ。心配をかけたくなかったのか、或いは言って猛反対されるのを嫌がったのか(きっとどちらもあるだろう)……。
 金澤曰く、今日の朝には荷物がなかったとのことだ。血相変えて部屋に来たときは嫌な予感がしたが、事は思ったより重大だった。
 中央区は基本、他の区には興味がなかったし、結城は人一倍それがなかった。それがずっと、続いてきた。……ずっとこれからも続くと信じて疑わなかった。なのに、…。

「田中悠木、か」
「何であいつなんだろう」

 分かっている。今更何を言ったって変わらないことを。だから俺たちは、結城を応援することと手助けすることしかできないのだ。
 「なんて情けない」掠れた独り言に、金澤は自嘲的な笑みを漏らした。

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