3 ひいいいい、一文字一文字紡いでいってるだけなのに、男の眉間の皺が増えていってるし! 怖っ! えっ、俺変なこと言ってないよな!? 因みに、弟もこのTシャツを持っているのだ。割とイケメンなんだからそれで街を歩かないでほしい。一緒に歩くと凄い恥ずかいんだよなあ…。その所為で今までに彼女が出来たのを見たことがない。全く以って残念な美形であるが、まあ、本人が特に気にしていないのだから別にいいんだろう。べっ、別に先越されなくて少し安心してるとか思ってないぞ! しかし、俺にDVD全巻を送ってきたのは流石に引いてしまった。その上電話では必ずその話を長々と話すのだ。俺をそっちの道に引き入れようとするな、と思う。まあ、それは押入の中に一年間眠っていたんだけどな。移動する準備の時に埃被ったダンボールの中に未開封のDVDが入っていたのを見つけたのだ。 そういうことで詳しくは知らないが、登場人物の名前は覚えてしまった。記憶力の悪い俺が覚えるくらいだから半端無いくらい言われたんだろう。 「ふーん…じゃあ、これくれてやるよ」 「……へ」 どこから出したのか、巫女ちゃんシリーズ第一巻のDVDを手渡された。な、何故そうなった。っていうか要らねえええええ。持ってます、それ……とはやっぱり言えず、男は俺の返事を待たずにグラグラと俺の腕の中で揺れる荷物の上にそれを置いた。微かに揺れる荷物をどうにかしてバランスを保った。 「…っあ、有り難く、頂戴致します…です」 「おう」 思いの外柔らかい声音に俯いていた顔を上げた。皺は相変わらず眉間にしっかりと刻まれていたけど、先程よりも笑顔に近い感じがした。 「…そうだ、てめぇ、名前は」 えっ、何故名前を!? もしかして後で探されてパシリにされてしまうのか!? 色々と疑問はあったが、答えないと寧ろ現時点で身が危ない。 「……た…田中結城です」 「田中か。俺は――」 言い掛けると、男は、はっと何かに気づいて視線を泳がせた。……ん? 何だろう。 俺は恐怖よりも不思議な気持ちが勝って、首を傾げて男を見上げた。 「あ、いや――…、浦田、だ」 それだけ言い残すと、子猫を抱えたまま俺の横を通り過ぎた。 |