保健室


 廊下は異様に静かだった。当たり前だ、殆どが旧体育館に集まっているのだから。
 暫く歩いていると、保健室に辿り着いた。中央区と構造が一緒だから、直ぐに見つけることができたのだ。落書きや傷が目立ってとても同じ造りには見えないが。この壁とか…修理しろよ、ってくらいなんだけど。大きな地震が起きたら絶対崩れるな、これ。
 あ、そういえば保険医ってどんな人なんだろう。ヤクザみたいな人だったら…ひー、想像するだけで怖い。

「…失礼します」

 しかしここで時間を食っては別な意味で危ないだろうと、気合を入れなおして数回ノックした。小さく声をかけてドアを開けると、何故か笑い声が聞こえた。

「うっひゃひゃひゃひゃひゃ! 何だこれ何だこれ! そこにバナナって、うっはー、うめえ! 誰だやったの、絶対潰す!」

 えっと、ここは保健室だよな?俺の見間違いでなければゲーム――赤い帽子を被った配管工のオジサンがでてくる某有名なレースゲームをしている白衣の人がいるんだけど。
 俺は呆然としながら高らかに笑う姿を見つめた。え、ってか何で保健室にゲームあるの? てかこの人保健医だよな?

「よっしゃ、赤甲羅きたー! さよなら永遠の二番手くん!」
「…あの」

 盛り上がっているところ悪いが、これ職務放棄だよな完全に。勝手に包帯とか持ち出したら流石に不味いし、と恐る恐る声をかける。保険医(仮)はキョトンとした表情でこっちに視線を向けた(そのときちゃっかり一時停止ボタンを押したのを俺は見た)。

「んんー? 誰かな? 見たところ東の連中じゃないみたいだけど。あっ、迷える小羊って奴?」
「えーと、今日から東区に移ることになった田中です」
「あー。うーんと、……あっ、はいはい! 可哀相な方の田中くんね!」

 可哀相な方って……。酷くないか? いや、分かりやすいけど!
 じとりと睨むと、視線に気付いた男が苦笑した。

「ごめんごめん。教師は区別する為に色々呼び名をつけちゃってね。いい方の田中くんじゃあ、あっちの田中が可哀相じゃない? 割と常識人だし」

 ……あれ、俺が可哀相なことには何も言わないの? 

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