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 っていうか添畑って犬みたいだ。叱られてしょんぼりとした格好が色んな意味で面白い。いや、ここで笑ったら絶対殴られる。俺は肩を震わせ、俯きながら笑いを堪えた。それを怯えていると勘違いしたらしい添畑は、谷屋先輩に怒られて下がっていた眉を再度つりあげた。

「じゃあやってやろうじゃ――って、今はこんな状態だからな。今は見逃してやる、感謝しろ!」
「へ、は、はあ…」

 やることはもう決定事項なのね。これから待っているだろう人生初の殴り合いの喧嘩を思うと気分が沈む。
 でも他の人じゃなくて吉と考えるのがいいか。添畑は単純そうだし脳にある知識を振り絞って考えたら互角あるいは勝てるんじゃないか。まあ、そんなに上手くいく筈がないだろうけど。添畑がまだ強いのか強くないのかが分からない。もしかしたらこう見えて強いのかもしれない(東にいる時点で強いのは確実なんだけど)。

「お前、大丈夫か? こんまえチンピラにまけ――」
「わー! ななな何言ってるんですか全く!」

 ……チンピラに負けちゃったのか。俺は慌てて声を上げた添畑にドンマイ☆と親指を立てた。……勿論心の中でな。
 取り敢えず、今は手当てをしないといけない――が、結局何をしたらいいのかがわからない。添畑に訊いても、睨まれて手伝いなんていらねえと言われそうだし、他の不良に訊けるほど俺は勇敢ではない。
 と、すると…。俺は横をちらりと見た。この男、見た目が怖くないし、喋り方もおっとりしていて、全然怖く感じない。何考えてるか全然分かんないけど。寧ろ眠たいとかしか考えてなさそうだけど。

「あ、の」
「俺は唐島桜路、三年じゃけぇ。お前さんのことは虎にちょいとばかし聞いた。宜しくな。ああ、この喋り方は方言とかじゃないけ、気にすんなぁ」
「は、はあ…(おうじって凄い名前だな…)、えっと、田中結城です。シロってよんでください」
「ああ、同姓同名…。ほんだら、シロ。保健室行って、包帯とか必要なもの持って来てくれんか」
「は、はい」

 それなら出来そうだと安堵して息をつくと、唐島先輩は眠たそうな目を細めた。それは睨んでいるような鋭利なものではなく、柔らかい。笑んでいるようだ。
 行って来ますという意味を込めて軽く頭を下げると、俺は体育館の出口へ向かった。

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