体育館にて


 ……って、何故この暑い中ジャージ!? 絶対暑いぞあれ。見てるだけで汗をかいてきた。ていうかアレに近付かなければならないのか…。うわぁ…。目に優しい緑とはいっても、これはちょっと。折角の整った顔が台無しな気がするわ。
 でも近づかないわけにはいかないし、と諦めて仕方なく駆け足で近付く。手当てに集中していた緑ジャージ――添畑は俺に気付くとあからさまに眉を顰めた。

「あぁ゛!? っんだてめぇ、どこのモンだ!」
「っ!」

 ヒュッと音がした。わー! 早速手が出るんですね! 焦って意味がわからないことに感心しながら擦れ擦れの所で避けることができた。間一髪…! …あれ、俺ってもしかして条件反射いいのか!?

「あぶなっ、」
「避けんじゃねェ!」

 いや避けるに決まってんだろ! 焦っている(しかしここで無表情を崩さないというある意味神業をしている)俺に向けて添畑が再度手を振りかざした時、凛とした声が響いた。

「添畑、いい加減にせぇ。そいつ、オレらん仲間じゃけぇ、手だすんはいかん」
「えぇ!? こんなひよっこくて地味眼鏡で弱そうで弱そうな奴がっすか!? 冗談じゃねぇっすよ!」

 ひよっこくて地味眼鏡で弱そうで弱そう!? 何故二回弱いと言ったんだお前! 確かに弱いけど…ってかボロクソ言い過ぎじゃね!?
 心の中で盛大に突っ込みながら、声の主を見る。眠たそうなとろんとした瞳が印象的な、添畑たちと同様で、端正な顔つきの奴がどこかの方言なのか知らないが、訛うぃが入ったよく分からない喋り方で俺を庇ってくれた。

「虎がえらく気にいっとうらしいからなあ」
「えええええっ、とっ、虎さんがっすか!?」

 信じられないという風に目を見開いてこちらを凝視する添畑。あまりにもジロジロと値踏みするように見てくるので居心地が悪い。
 漸く視線が外されてほっと息を吐くと、添畑は再度視線を俺に戻し、睨んできた。

「俺はお前なんか認めるか! 虎さんにどんな手使って気に入られたかは知らねえけどな、お前はここに入ることなんてできねぇ! 何故ならお前は喧嘩で勝てないからだ!」
「あー…ほんだら、お前さんが相手せぇ。そんで文句ねぇな」
「ええっ!」
「ええええ!?」

 男の爆弾発言に瞠目して添畑と俺は同時に叫ぶ。ナニコレ予想外すぎるんですけど! 添畑も目を見開いていたが、暫時するとにやりと笑って叫んだ。

「ふ、…ふふふ…ふははは! やってやろうじゃねぇか! まあ俺が勝つけどな! はーっははは!」
「煩ぇぞ添畑! 遊んでないで真剣にやれ!」 
「すっ、すみません達さん!」

 高笑いを始めた添畑に谷屋先輩の怒号が飛んできた。それに顔を青褪めて肩を跳ねさせると、俺を睨んできた。こ、怖っ!

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