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「うーん……やっぱりちょっと厳し…ゴホン、よし、行くか!」

 あの、聞こえてますよ?
 普通は聞き取れない小さい声だったが、東の寮には今全然人がいない。つまり、静かだからすんなりと俺の耳に届くのだ。つか厳しいとか言おうとしたのを誤魔化して「よし、行くか!」じゃねえよ! 白々しいわ!
 勿論口に出して言えない俺は心の中で突っ込んだ。そして、そのまま行こうとする谷屋先輩に慌てて声を掛ける。

「いやいやいやいや、ちょっと! 俺フルボッコですよ確実に!」
「大丈夫大丈夫はははは」

 何その棒読み! 余計に心配になってきたよ!
 この様子だと俺の意思関係なく連れて行くらしい。どうしよう、と青褪める。何か、何か最善策はないものか。
 ――駄目だ、何も浮かばない。歯をギリ、と鳴らすと意を決して真っ直ぐ谷屋先輩を見据えた。

「わ、……分かりました」

 声が情けなく震える。きっと、いや確実にそれに気付いているであろう谷屋先輩は、何も言わず男らしく笑うと頭を撫でて来た。まるで安心しろとでも言う様に。
 反射的に顔が赤くなる。誤解を招くといけないので言っておくが、赤くなったのは別に好きだからとかではないからな! その優しさと男らしいフェロモンに中てられたんだ! って、誰に言い訳してんだ俺。
 わたわたと挙動不審なっている俺と笑みを浮かべる谷屋先輩。それを面白くなさそうに見ていたハルは、べりっという効果音が似合うほど勢いよく俺と谷屋先輩を引き剥がした。
 どうしたハル! いやでもある意味助かった。凄く恥ずかしかったぞ俺は!

「勝手に、さっ…触んじゃねえよ!」

 自分が触られた訳でもないハルが何故か真っ赤になってキレていた。どういうことなの。相変わらず行動と表情の変化がよく分からないな。

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