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 寮の入り口まで行くと思わぬ人物がいた。しかも何やら言い合っている、……一方的に。
 ハルは谷屋先輩を睨んでいるが、睨まれている本人はどこ吹く風と欠伸をしている。…ちょっとシュールな光景だ。ってか近づきたくないんだけど。でも急いでって言われたしなあ…。俺は恐る恐る近づいて声を掛けた。

「あの…谷屋せ」
「アイツが喧嘩強そうに見える訳ないだろ!」
「いや、田中みたいにナヨナヨしてる奴ほど強いかもしれないだろ」
「え、ちょ。あの…」

 ……聞こえていないみたいだ、つか、何か流れ的に俺の話っぽいんですけど! ナヨナヨしてて悪かったな! 確かにハルや谷屋先輩みたいにガッシリしてないけどこれが標準だ。

「だから、んな訳ねぇ! 俺が保証する!」

 えええー! 何でお前が保証すんの!? 保証出来るほど深い仲じゃないよな!? いや、まあその通りなんだけどな! 喧嘩とかしたことないし。でも……言い切られると悲しくなるんだけど…。

「まあぶっちゃけ俺もあいつは喧嘩とか無縁だと思うけど」

 そんなに俺は喧嘩するイメージが無いのか? 喧嘩するイメージ持たれても困るけど。
 …しかし一体いつ俺に気がつくんだ。急げって言った割にはのんびりしてるな。

「…ん? あ、田中。来てたのか」
「お前、声かけろよ!」

 いやかけたよ! 気付かなかったのそっちです!
 谷屋先輩はニヤリと笑う。……もしかして谷屋先輩気付いてたんじゃないか? 今気付いたって雰囲気じゃない。ハルは絶対今気付いたんだろうけど。貶してるわけじゃないけど、こういうのに鈍そうだ。
 俺は苦笑して谷屋先輩達に近づく。ハルが俺の動きに合わせて視線を動かす。なんかめっちゃ見られてんだけど。何なんだ…? 少しビビリながら、ハルを一瞥して、谷屋先輩に向き直った。

「えーと。…何か書き漏らしですか?」
「ああ、いや記入漏れは無かったよ。――田中はさ、山梨亘って聞いたことあるか?」
「山梨……? 聞いたことあるようなないような……。有名人ですか?」
「……ここでは有名な奴だ」

 ハルが眉を顰めて吐き捨てるように言った。この学園で有名って……。それは功名高い奴なのか? それとも悪名高い奴なのか? って絶対後者だろ……。

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