呼び出し




(side:結城)


 …帰ってこない。
俺は三十分程前に同室者が出て行った開けっ放しの扉を見て溜息を吐いた。もしかして喧嘩でもしているかもしれない。怪我をして帰って来たら俺はどうしたらいいんだ? 不良だからな…。充分有り得る。
 そういえば、と携帯の存在を思い出す。すっかり忘れていたが、先程実利から掛かってきた電話を制止の声を無視して強制的に終了させてしまったのだった。あいつは話を途中で遮られたり、礼儀のないことをされたり、兎に角そういうことにに対して煩いからから放っておくと後で面倒そうだ。……もう遅い気もするけど。
 部屋も割と片付いて後は必要なものと不必要なものをハルに分けてもらうだけだから丁度いい。電話しよう。携帯に手を伸ばし電源を入れるとぎょっとして瞠目する。

「ええええ! 新着メール二十件、不在着信十五件!?」

 どんだけ短時間に連絡入れてんだよ!?
 深い溜息を吐くと一つ一つ目を通し、相手と内容を確認する。……ああ、東谷とかクラスの奴らも連絡くれていたのか。悪いことをしたな。申し訳ない気持ちと同時に、嬉しくなる。メールの一言だけでも、長々とした文章も、俺を思ってくれている気持ちが文面に伝わってきたのだ。中には機械音痴の奴からのたどたどしいメールもあった。誤字はあったが、一生懸命打ってくれたのだろう。自然と頬が弛んだ。
 因みに東谷…もとい金澤東谷。名前も苗字みたいな奴は俺の元同室者だ。先に実利に連絡入れるか、と思った矢先携帯が手の中で震える。どうせ実利だろうと携帯の画面を見ると、そこに書かれている数字は知らない番号だった。誰だろうと考える前に通話ボタンを押してしまった。

「あ、田中か?」

 聞こえた声はさっき知り合ったばかりで、俺の電話番号を知らない筈である谷屋先輩だった。
 ――って、何で番号知ってんだよ!?

「そうですけど…、あの」
「まあ言いたいことは分かる。けど取り敢えず今から寮の入り口に来てくれないか」
「は? はぁ…いいですけど」
「出来るだけ急いでくれ」

 「急にすまないな」谷屋先輩は申し訳なさそうに告げると通話は切れた。急いでくれ…って、一体何があるんだ? 何か寮のことで記入し忘れたことでもあったっけ……。出て行ったままのハルが気になるけど、行くしかないか。……実利たちには悪いがまた後で連絡入れることにしよう。携帯をポケットに突っ込んでカードキーを持ち、急いで部屋を出た。

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