手に伝わる熱


(side:悠木)

 く、くそ…!
 俺は一度舌打ちし、顔の熱を冷ますために寮内を走り回る。幸いにも人影は見当たらなかった。そして立ち止まると少し乱れた息を整え、壁に寄り掛かる。そのまましゃがみこみ、手で顔を覆う。走った所為なのか、それとも別の理由か、手に熱が伝わった。
 ……田中結城。俺と同姓同名らしいそいつ。最初は気味が悪い奴だと思った。無表情な顔で見られた時、何て気味が悪い奴だと。…しかしどうだ。俺は、あいつのはにかんだ笑みを見て…。

「かかか可愛いとか思っちまった…」

 そうだ、可愛いなんて思ってしまったのだ。どんな美女にでさえ可愛いと思ったことがない自分が。今日初めて会った奴に、しかも男に、しかも無表情な平凡に!
 あの顔を思い出し、再び顔に熱が集まる。 何なんだよ俺は。一体どうしたってんだ! ――ま、まさか俺はブサ専だったのか…!?
 
「あ゙ぁ!? テメェ…クソ下僕、何処ほっつき歩いてたんだ!」
「なっ、国分寺さん!?」

 嫌というほど聞き慣れた声が降ってきて、俺は手を外して上を見る。恐ろしい顔で俺を見下ろす国分寺さんに汗が一粒流れた。…何で一番会いたくない奴に真っ先に会うんだ…。
 未だに赤い顔を見られたくなくて(情けないというのも確かだがこれ以上あいつは国分寺さんと関わらせたくない)俺は顔を背けた。
 しかしそれは逆効果だった。国分寺さんはにやりと悪魔の様に笑い、核心をついてきた。

「オイオイ下僕、キメェ顔してんなァ。原因はとっくに分かってんだぜ? 田中結城――シロ、あいつだろ?」

 どくん、と心臓が鳴ったのが分かった。同時に言いようのないイライラが胸を占める。

「あいついいよな、気に入った」

 何だ…? 何で俺は、……。

「……ッ、クソ!」

 何で俺は苛ついてるんだ?
 考えるよりも先に手が動いた。右手を思い切り顔面を狙って突き出すが、しかし国分寺さんは予測していたとでもいうように再び笑うと顔を横にずらした。

「下僕の分際で……と思う所だが俺様は今機嫌が良い方だ。なかったことにしてやる。っつーかテメェ、俺様が探してるってのにフラフラほっつき歩いてんじゃねェ」

 そういえばシ、シ、シ、シロ、……あいつが国分寺さんが俺を探しているとかなんとか言っていたな。
 この人の用って言ったってロクなことなんてないんだよな。前はなんだったけな…。俺様の肩が凝ったから揉めだったか?
 因みに国分寺さんは俺の従兄弟に当たる。知らない間に下僕にされて、それを直して貰おうと喧嘩を挑んだが悔しくも惨敗だ。

「山梨が出てきた」
「なっ!?」

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