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 鋭い瞳は訝しく俺を貫いていたが、俺の尋常じゃない震えと吃音に悟ったのか、ただ興味を失ったのか、肩を竦めた。同時に視線も外れ、俺はそっと安堵の溜息を吐く。

「つーか汚ぇなここ」
「そ、それはハルに言ってください…」

 ほぼ独り言に近い言葉を呟くとそれを拾った男――国分寺虎は眉を顰めた。

「あぁん? ハル? 誰だそれ」

 眉をグッと顰めて凄む姿は恐ろしく怖くて恐ろしく格好いい。暫く恐怖、そして見惚れてぼおっとしていると苛立ったように先を促される。「おい、聞いてんのか」ひぃぃぃこええええ!

「た、田中悠木…くん、のこと、ですよ。同姓同名だから俺はハル、と――…」
「はん、成程なァ。あいつにハルとかキモくて笑えるわ」

 キモいだろうか…? 案外似合ってると思ったんだが…。決めた俺もちょっと傷ついたぞ。

「ん? そーいやあいつはお前のこと何て呼んでんだ?」
「へ、あ、えっと…シロですけど」
「へぇ…」

 にやりと笑う。その獲物を前にした獣のような姿は異様に妖艶だった。背筋がぞくりとする。視線が逸らせない。

「ワンコロみてぇだ。……白ってのはいいよな。純粋な、何色にも染まってなくて。それに…」

 一旦言葉を切って俺を見つめる。射るような視線に思わず後退りした。とん、と壁に背中が当たる。

「俺様の色に染め上げたくなる」

 べろりと赤い舌が見えた。何だこの男、マジで色気半端ないな……!

「……んで、お前はここで何してんだ? 見たところ東じゃないだろ」
「え、いや、えーと……話すと長くなるんです、けども…簡潔に言うと、ですね、中央から東に移ることになったんです」
「ほー、中央からか。一体どんな大事起こしたんだぁ?」

 やっぱり俺が問題起こしたと思われるか…。ハルが問題起こしたせいなんだけどなぁ。いや、実際ハルは悪くないと言ったら悪くない。しかし悪いと言ったら悪い。原因を作ったのは間違いなくあの男だからな。しかし教師も教師だ。生徒を誤って移すとかどうなっているんだ。採用し直した方がいいんじゃないか。――…うーん、そう思うと皆悪く思えてくるな。

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