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「…あ?」

 あれ、俺初対面の人に何言ってんだろう。表紙の絵に騙されて買った小説が何冊あることか…! 中身は残念なものが多くて、金を溝に捨てたような気になった。いやそれはこの状況下でどうでもいいんだけども。
 何だかこの男前も表面だけで、中身は冷え切っているような、…というか中身があるようには見えない。上手くいえないけど、人を見下していることにも何とも思っていないって感じだ。
 男前はぽかんと呆けた様な表情になる。そんな表情もサマになるのだから本当に美形って得だな。羨ましいとか別に思ってない、…うん。
 暫く沈黙が続きそろそろ片付け再開したいなあとかいい加減出てってくれないかなあとかていうか結局何しに来たのかなあとか思っている(思っているだけというのが重要だ)と視界の端で男前の肩が震えているのに気がついた。何だ? …怒ったのか? 俺は謝らないぞ。いや、やっぱり謝ります。だって怖いんだもの! 仕方ないよね、俺弱い子だから。
 しかし予想に反して男前は笑い始めた。最初は押し殺したような笑いだったがそれは次第に大きくなる。ぎょっとして男前を見た。何だ、気が狂ったんだろうか。もちろん言わないさ。こんなこと口にしたら殺されるからな。

「…お前中々面白いな」
「……えっと」
「くく、何だよ小説って。俺様にそんなこと言った奴初めてだぜ?」

 そりゃそうだろう。こんな本を読むイメージからかけ離れた男前と小説の話をする不良はいない。一般人もいない。……いや、でも俺だって別に話はしていないな。小説という単語を出しただけで。

「フン、あいつはいねえみたいだな。まあ、結果としてあいつがいなかったからテメェに会えたからヨシとすっか」

 そうだ、ハルが下僕だとか何とか言っていたな。何か用事でもあったのだろうか。……はっ、そうか。つまりこの男前はハルに会いに来た。ハルがいる=俺には会わなかったという方程式が出来上がる。ハルを呪…嘘ですごめんなさい…!

「俺様は国分寺虎様だ。テメェの名前訊いてやるよ」
「…田中太郎です」
「あ?」
「すみません嘘ですごめんなさい!」

 やっぱりどう考えても偽名っぽいよな! 田中太郎さんごめんなさい

「で?」

 促すそれに、俺はもう諦めるしかなくて項垂れた。

「た、田中…結城、です」
「あ? ふざけてんのか?」
「めめめめ滅相もないでででです!」

 仕方ないだろう、同じ名前なんだから!

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