男前不法侵入


 ……えーと、ここは俺の部屋だよな? ハルの物で散乱しているのは何故だ?

「オイオイどうすんだこれ」

 呆れたように呟いても当本人は顔を赤くして出て行ってしまったし、部屋を片付けないと後々面倒だ。ハルには悪いが勝手に掃除させて貰おうと思う。こう見えて家事は得意だ。
 意気込んで腕まくりをするとゴミの山(本人にはゴミではないのかもしれない)に手を突っ込んだ。
 ………これは酷い。出てきたのは一年以上前に賞味期限が切れたパンだった(しかもクリーム入りというオプションつき)。お、おぞましい…! 黒光りするアレの住処と化してないだろうな……?
 溜息をつくと後ろでガチャリという音がした。ビクリと肩が揺れる。ハルが戻ってきたのか? ってハルしかいないよな。

「あん? 誰だテメェは」

 また訳分からん奴出てきたー! どうやって入ってきたか訊いていい? 訊いていいですか? いや、訊くの怖いから聞かないけど!

「俺様の下僕の部屋に勝手に入るなんざ、ナメた真似してくれてんじゃねえか。あぁ?」

 ぞわりと体が硬直する。目の前の男は整いすぎていると感じるほど綺麗な顔をしている。切れ目の長い碧い瞳。良く見ればオッドアイだった。右目が碧く、左目が紅い。ハルや谷屋先輩も十分美形だったが、この男はそれに色気やらなにやらプラスされた男前だった。思わず見惚れてしまう。
 にやり、と。悪魔が実際にいたらこういう風なんだろうな…なんて呑気に考えていた。…ところで貴方誰ですか? いくつか気になる単語が聞こえてきたんだが…俺様? 下僕? 俺様ってホントに使う奴いたんだ…。


「――ああ、俺様に魅入っちまったか?」

 反論したかったが見惚れてしまったのは図星だったため何も言えなかった。これは男でも魅入ってしまうだろう…!
 くくくっ、と楽しそうな笑い声が聞こえたが何だか本心から笑っているような雰囲気ではなかった。人を見下したような視線に思わず眉を顰めて俯いた。怖い。この男は危険だと脳が警告をする。

「平凡だけど特別に俺様が相手してやってもいいぜ…?」

 尚も笑い、顎に手をかけようと伸ばしてくる手を思い切り払った。じんじんと手が痺れる。

「確かにあなた様はかかかかかっこいいです! それはもう俺の百倍寧ろ千倍はかっこいいですねハイ。た、確かに見惚れたました。でも」

 俺は混乱で自分で何を言ってるのか分からなくなりながら、それでも真っ直ぐ男を仰ぎ見た。


「絵が綺麗なだけの小説なんて面白くない、です」

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