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 取り敢えずこの酷い部屋を片付けたい。しかしこの私物なのかよく分からない物を勝手に片付けてしまっていいのだろうか。でも流石に食べカスとかは捨てていいよな? しゃがんでゴミを集めていると痛いほど視線を感じる。チラリと窺ってみると、ハルは俺を凝視していた。その険しい顔に一瞬ビビったが、睨んでいるというより俺の行動を理解できないと不思議に思ってるような顔だ。

「か、片付けます」

 少し声が震えた。やっぱり不良は怖いが、同室者とは仲良くしたい。怖がっているのを誤魔化そうと無表情を崩してちょっと笑ってみると、ハルが瞠目した。あ、これは好印象と捉えて宜しいでしょうかね。

「うっ、」

 瞠目したまま顔が赤くなっていく。小さく呻くような声が聞こえた。
 ……あれ? 何で顔が真っ赤に? 首を傾げるとジリジリと後退していく。

「ど、どうし――」
「っ、うわあああああ!」

 急に叫んで部屋から出て行ってしまった。俺は言いかけた口をぽかんと空けたまま呆然とする。え…一体如何したんだ。もしかして俺、不良もビビる凶悪な顔をしていたのか!?
 それにしても殴られなかったな。意外と常識人なのかもしれない。しかし東の皆が皆ハルのような奴だとは限らない(というかそれは有り得ないだろう)し、もっと凶暴な態度をとるような奴らが多いのではないだろうか。
 ――あれ?

「谷屋先輩も一応東なんだよ…な?」

 思えば最初から不自然だった。友好的過ぎたのだ。ハルのような人だったらまだ分かる。しかし、あの人は"最初から友好的な態度"をとっていた。ただ単にいい人ならいいのだが、そんな人が東へ移されたりするだろうか?
 ……うん、謎だ。深く関わるつもりは無いが、寮長という立場上関わってくる節があるだろう。参ったな。こんな崖っぷちに立たされたからか神経が張り詰めている。だからこんなことまで考えてしまうのだろう。そうだ、そうに違いない…。
 用心するに越したことは無い、か。そこまで考えてから部屋に入る。

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