3 「えっと、じゃあ俺はこれで」 「ああ、引き止めて悪かったな。……っと、そうだ。田中悠木――お前の同室者の奴にこれ渡しておいてくれないか」 思い出した様にそう言って取り出したものは携帯電話だった。え、何故寮長がこれを……。 「あいつ直ぐに物落とすから困ったものだよ。じゃあ、頼むな」 はい、と返事を返して背中を向けて去っていく寮長の姿を一瞥すると早速カードキーを差し込む。少し経つとピッと言う軽快な音がしてランプが点滅した。それを確認してドアノブを引いた。 部屋の中に足を踏み込む。前住んでいた寮と構造は同じようだ。っていうか汚いなオイ。積み重ねられたゴミや漫画を倒さないように一歩進む。そのときごそり、と何かが動く気配がした。この場合考えられるのは霊とか変質者とかではなく同室者だろう。 ボーッともそもそと動く物体を見つめていると暗闇から拳が飛んで来た。俺は間一髪で横に避ける。 「………っ!」 わあああああ! どうすんの! 俺マジでそういうのやったことないんですって! 内心かなり動揺していたのだが、表情は相変わらず無表情だったからか相手はそれに気を悪くしたようだ。 「テメェ……何か言いやがれ! つか誰だ! どうやって此所に入った!」 ひぃー! こえー! 生不良超こえー! 俺甘く見てたごめんなさい許して! 頭はパニックで何も答えられなかった。どどどどうしようどうしたらいいんだ。取り敢えず何か言おう。えーと、えーと俺は鼠で不良は猫で猫は不良で…! 「………ね、猫じゃらしって気持ちいいっすね!」 「は?」 沈黙。ひたすら静寂が続いた。 間違えたー! 俺は何を言ってるんだ!? 空気が重たい! 誰だよKY! ………俺だー! 「いっ、意味わかんねぇよ! ふざけんなっ!」 ですよねー! 「おっ、おおおちつこうおちつきましょしょしょ」 「お前が落ち着けよ!?」 意外に突っ込むんですね! ああ、ていうかホントに俺落ち着け。大丈夫、猫(のような猛獣)に勝つって言ったじゃないか。 俺は深呼吸して真っ直ぐ田中悠木を見つめる。それに田中悠木は驚いたように目を見開いた。怖いのを悟られないよう、息を静かに吐く。 「お、俺は田中結城…です。おま…アナタと同姓同名で因みに同室者だったりしますねアハハハ」 「………あ?」 「勘違いでここに入ることになったので、よ…宜しくお願い、します。あとこれ寮長から預かったものですねそれじゃ俺はこれで…」 「ちょっ…まてまてまてまて」 怖くて何度も吃ってしまった。最後は早口で済ませ、預かっていた携帯電話を呆然としている田中悠木に無理矢理渡して部屋に入ろうと思ったが、それを田中悠木が慌てたように引き止めた。いや、仕方ないよな!? だって生まれて初めて不良と対面したんだ(谷屋先輩は不良って外見じゃないからノーカン)。そして、同い年なのか? やっぱり。でもあれだな、同い年だとしても敬語使っちゃうよな、うん。 というか荷物を置きたいんだ俺は。怖いし怖いし取り敢えず怖いし。 |