君の待ち人


 寮前のベンチに座る、燃え盛る火のような赤髪の少年は大変機嫌が悪かった。それには二つの理由があった。ひとつ。

「……おっせぇ」

 舌打ちと共に苛立ちを呟いた少年。寮から出てきた水色の髪の青年がにやりと笑ってその言葉を拾った。

「ラギくん、そんなところで何してるの? もうそろそろ行かないとヤバいんじゃないかな」

 ひたすら地面(詳しく言えば蟻の行列)を眺めていた少年ことラギは顔を上げ、一層顔を顰めた。

「アルバロこそ何やってんだ?」
「俺? 俺はルルちゃんと一緒に行こうかなって思って今から待つつもりだよ」
「なあっ!?」

 目を見開いてベンチから勢い良く立ち上がったラギは自分の失態に気づき、苦虫を潰したような顔になった。それに口角を上げたアルバロは、マントを押し上げて腰に手を当てた。アルバロの左頬に埋め込まれたタリスマンの媒介が日によって反射する。

「その反応からするとラギくんもルルちゃんを待ってた口かな」
「ばっ…ち、ちげーよ!」
「何!? そうだったのか!」

 図星ととれる反応をした後聞こえた声に二人は視線を遣った。何故か草の中から這い出てきた緩いパーマ掛かった金髪の少年は何故か顔を赤らめた。それにアルバロは呆れたように眉を下げた。

「ノエルくん…、君はまた何でそんなところに」
「あー、僕はだな、そうだ、花をみていたんだ!」
「いや、何で這いつくばって見てんだよ」
「っていうか花なんて咲いてるようには見えないんだけどなあ」
「ぐっ……!」

 言葉に詰まったノエルはパクパクと口を開閉しているが、結局溜息を吐いて手の甲につけた魔法具を撫で上げた。そしていきなり胸を張り、目を輝かせて口を開いた。

「実はだな――」
「あれ? アルバロとラギじゃないか。何してるの、こんなところで」
「だぁー! この声はユリウスだな! 貴様、僕の」
「ユリウス、入口に立たないでください」
「ああ、ごめん」
「って、おい! 僕を無視するなああ!」

 横で叫んでいるにも関わらず、片手に本を抱えた青髪のユリウスはラギとアルバロ、そして幼さを含んだ顔立ちに冷めた目を乗せたエストしか視界に入れていない。それに自称ユリウスのライバル、自称天才魔法使いなノエルは憤怒する。

「あ、ノエルいたんだ」
「あ、ノエルいたんだ、じゃない! あのなあ、僕はだな」
「それで、何やってるの?」
「ルルちゃんを待ってるんだよ」
「ルルを?」
「――何ですって?」

 意外や意外、興味の有無の差が激しいユリウスが煌々と目を輝かせ、何事にも関わりを持とうとしない、冷めた性格のエストまでもが足を止めてこちらを見た。完全に蚊帳の外なノエルはあの、やらおい、やら横で声を掛けているが、完全無視だ。

「何故あなた達がルルを待っているんです」
「ルルって言えば――、そうだ、今日意味が分からないメロンパンをくれるっていってたな。本当に意味が分からないらしいんだよ、あのメロンパン」
「何ィ!? ルルから貰い物など、僕は一回もないのに……!」
「つかお前も何でそんなことに口出してくんだよ? 俺がルルを待っていようが待っていまいが関係ないだろ」

 ラギが眉間に皺を寄せながらエストを見下ろすと、エストははあ、と溜息を吐いた。

「ルルには昨日僕に闇属性の魔法を教えてほしいと言われてたんです」
「だからエストくんそんなに機嫌がいいんだ?」
「なっ――、べっ、別にそんなことありません! いいですか、僕はですね」
「んなことどうでもいいんだっての!」
「うんうん、ルルちゃんは俺と一緒に行くんだから君達は早く行った方がいいよ」
「何でそうなるんだ! ルルは俺と……あ、いや、」

 口篭もるラギ顔を赤くし否定するがそれにニヤリと笑ったのはアルバロだけであり、皆それぞれ寮の入口を心待ちに眺めている。

「それにしても、この時間まで出てこないとなると――」
「寝坊かもね」

 はあ、と溜息を吐くエストの横でアルバロが苦笑しながら答えた。しかしその時。待ち望んだその人の声が聞こえた。

「あれ? 皆揃ってこんなところで何やってるの?」
「ああ、やっと来たの、ルルちゃ――」

 笑顔で振り向いたアルバロは隣にいる人物に目を留めて一瞬言葉を詰まらせた。皆も驚いているようで(特にラギとノエル)、目を丸くしている。

「…何してるのかな、殿下」
「見ての通り、ルルと遊んでいるのデス」
「遊んでるだと!?」
「え、っつかこの時間に?」
「遊んでるっていうか、四つ葉のクローバーを採ってたんだけどね」

 ほら、と手の平を広げクローバーを見せてくる嬉しそうな表情のルルと、その横のニコニコしているビラール。ルルを待っていた一同(ユリウスとアルバロ除く)はそれぞれ溜息を吐いたのだった。








(ビラールだけいい思いしやがって!)
(ちょっと待て、僕の存在忘れてないか!?)
(……はあ、僕はもういきます)
(俺もそろそろいかないとね)
(あ、ユリウス、はいこれ)
(これが意味が分からないメロンパンか! 有り難うルル!)
(皆さン、仲が良くて微笑ましいデス)




長かった…。allなんでしょうか、これは。

…やっつけです。

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