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 くく、と笑って、足を戻す。そしてチェシャ猫の腕をひっぱり、腕に抱いて腰を下ろした。そして、目の前の首にがぶりと噛みつく。

「いっ……!」

 チェシャ猫は余裕そうな表情を一気に歪ませた。相当な力で噛まれていることがわかり、このまま食いちぎられるのではないかと一瞬不安になった。身を固くしている内に歯が抜け、ぎゅっと今度は締め殺されそうなほどの力で抱き締められる。首元が熱い。恐らく――否、確実に血が出ているだろうとチェシャ猫は顔を引き攣らせた。

「…なにキレてるのさ」
「テメェはいつあのクソ野郎に飽きんだよ、あぁ?」
「クソ野郎…会長さんのこと?」

 チェシャ猫が今はまっているのは会長虐めだ。飽きっぽいチェシャ猫が中々飽きないことに苛立っているらしい。

「だって、会長さん面白いからさ…」
「うっせえ」

 帽子屋は頭を掴んで自身の方へ向かせると、顔を寄せた。チェシャ猫が、あ、と思った瞬間には再び噛まれていた。今度は頬だった。先程より痛みはなく、血も出てなさそうだとチェシャ猫は少しほっとする。帽子屋はくっきりとついた歯型に満足そうに笑うと、チェシャ猫を解放して立ち上がった。

「テメェは俺のもんだってこと、忘れんじゃねえぞ」

 奇怪な笑い声を上げて、にいっと笑う顔は確かにイカレていると表現するに相応しいものだった。チェシャ猫は無言で去っていく帽子屋を眺め、寝転がった。目を瞑る。



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