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 ドアを開け、モトヤの靴を見ると、りゅーいちくんがじろりと僕を見た。

「……おい」
「なあに?」
「簪いるじゃねえか…」
「うん、そうだね」

 がっくりと肩を落とすりゅーいちくんを笑顔で見つめる僕と、音を聞きつけてやってきた無表情のモトヤ。僕はりゅーいちくんの背中を押して部屋に上がらせる。

「……ねこ、な、…んで」
「お茶しようと思って。モトヤもどう?」
「おい! こんな奴誘わなくて――」
「ん」

 りゅーいちくんの言葉の途中でモトヤが頷く。今度は深い溜息を吐いたりゅーいちくんは、背中に哀愁を漂わせながら奥へ歩いて行った。

「…おれ、…茶」
「モトヤが淹れてくれるの?」
「ん」

 「じゃあお願いね」上目遣いのまま首を小さく傾げて頼む。じわじわと赤く染まる顔を見て笑みを深めると、僕はりゅーいちくんの後を追った。

「二人じゃねえのかよ…」
「二人の方がよかった?」
「おわっ!? お、おま、き、聞いて……!?」
「うん、聞いたけど」

 にっこり笑うと、りゅーいちくんはボッと顔を赤くした。

「そっかあ、りゅーいちくんは僕と二人が良かったのかあ」
「や、止めろ……」

 あ。りゅーいちくんが机に伏せた。でも髪の隙間から覗く耳は赤い。僕も真似して頬をぺたりと机に付ける。ひんやりとして気持ち良かった。

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