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 そんなことを思ってるとは知らないりゅーいちくんは、顔を赤くしたまま忙しなく目を動かしている。

「そ、それはどういう……」
「ねえ、りゅーいちくん。これから暇?」

 りゅーいちくんの言葉を遮ると、首を傾げて訊ねる。

「いや…別に」
「じゃあ、僕の部屋でお茶でもしようよ」
「…簪がいんなら行かねえぞ」
「モトヤ? 大丈夫だよ、出かけてるはずだよ」

 なんて。モトヤは今日部屋でおとなしくしてるって言ってたからいるんだけど。面白いから黙っておこう。

「じゃあ行くわ」
「うん」

 僕はりゅーいちくんの手首を掴む。そしてぐいぐい引っ張ると、りゅーいちくんは慌てたように、おい、と口にした。

「な、な、なんで、手」
「僕、今日いろんな人に会うんだ。このままゆっくりここで話してたらまだ誰かに会いそう」

 だからって別に手を掴む必要はないんだけどね。ころころと表情が変わるりゅーいちくんを見たいから。…それに、今のは嘘じゃないし。本当にいろんな人に会うからなあ、今日は。僕もいい加減疲れてきたよ。

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