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 唖然としている会計さんを置いて、僕は歩き出す。ううん、紅茶を飲んだら、お菓子も食べたくなってきた。あの時会長さんに貰うだけ貰って逃げればよかったかな。

「ま、いいや。部屋に戻ろっと」

 モトヤがいたらお菓子貰えばいいし。うんうんと頷いて僕が足を踏み出したとき。

「え、帰っちゃうのか」

 ぴくりと猫耳が動く。この声は――。振り返ると、爽やかに見える笑みを浮かべた。

「レン、何してるの?」
「チェシャを観察してた」
「……へえ、僕をね」
「そう、俺は神だからね。この世界の人間じゃないチェシャのことは監視しておかないと」

 あれ、今さっき観察って言ってなかったっけ。まあ、いいや。

「今更じゃない?」
「ま、そうかもな」
「それに、僕よりも面白い観察対象がいるじゃない。イカれた帽子屋がさ」

 ね、と笑って見せるけど、レンは首を振って僕を指さした。

「いや、俺としてはチェシャの方が興味深いよ。ということで――」

 僕の猫耳がぴくりと動く。足音だ。バタバタと走っている音が聞こえる。何か面白いことでもあるかなと思った僕は音の方に顔を向けた。

「あ」
「テメェクソ猫! やっぱり動きやがったな!」

 会長さんが走って、僕のところまでやってきた。なんだ、見つかるの早かったな。

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