猫が行く

詰々番外編/チェシャが周りを振り回して遊んでる話



「あ、会長さんだ」
「……お前、また木に登ってんのかよ」

 お気に入りの木から下を覗くと、会長さんが呆れた様子で立っていた。にこりと笑って見せると、手招きされた。

「ちょっと降りてこい」
「ええ? やだよ」

 僕はもっとのんびりしたいんだ。ごろんと再び寝転がると、甘い匂いが漂ってきた。あ、これは、紅茶系のお菓子だな。

「これやるから」
「まあ貰えるなら――と言いたいところだけど、あいにく、さっきお菓子食べたばかりでね。お腹いっぱいだからここで休憩してるってわけさ」
「食って寝て……って、太るぞ」
「僕らは太らないんだよ」

 にやりと笑う。会長さんの顔は見なくても分かる。顰められているだろう。お腹いっぱいなのは本当だ。実はりゅーいちくんとかモトヤに貰ったから、結構食べたんだよね。

「っていうか、会長さん、僕に何の用なの?」
「あの帽子被ったクソ野郎が暴れてんだよ。お前じゃなきゃ止めらんねえだろ」
「なるほどねえ」

 面倒くさいなあ。帽子屋の相手は、僕も疲れるんだよね。僕は再び会長さんに顔を向けた。

「分かった、いいよ」
「そうか、なら――」
「でも、その前にりゅーいちくんを連れてきてほしいんだ」
「は? なんでだよ」

 訝しげに眉を寄せる会長さん。

「実はりゅーいちくんに用があったんだけど、僕今ここから動きたくなくてさ。りゅーいちくん呼んできてくれたら一緒に帽子屋を止めに行くよ」
「……お前逃げるだろ」
「僕の話聞いてた? 動きたくないって言ったんだけど」

 ね、と笑って見せると、僕の言うことを聞くしかないと思ったらしく、渋い顔で頷いた。

「絶対に動くなよ!」
「はいはい」

 ぎろりと最後に僕を睨んで、大股で去っていく会長さん。僕はにんまりと笑って、木から飛び降りた。

「さてと、どこに行こうかな」


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