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「お、俺――俺がおるやろ」

 勢いに任せて言うと、チェシャは一瞬きょとんとした。丸い瞳が俺をじっと見つめる。

「どういうつもりで言ってる?」
「ど、どういうつもりって……そ、そういうつもりや」

 そういうつもりって何や。自分で自分に突っ込む。こういう時、ヤマネや帽子屋のような奴はハッキリ言うんだろうなと肩を落とす。チェシャは無言で俺をじっと見たままなので、慌てて口を開いた。

「う、あ、あの。なんちゅーか、そういうつもりっちゅーか」
「うん」

 にこりと笑うチェシャ。なんだか素直だ。調子が狂うというか、若干の気味悪さも感じるが、それ以上にチェシャが可愛いと思う俺は、やっぱりチェシャバカだ。恋は盲目という言葉もあるしな。

「お、れはチェシャがす、好きで」
「うん」
「だから俺のこと、見てほしくて…」
「いいよ」
「そんで……え!? いいよって……!?」

 ぎょっと目を見開く。い、今、チェシャはなんて……!?

「ハートのトランプ、僕のこと慰めてくれるんでしょ。ならいいよ」
「そ、そんな簡単でいいんか……?」
「別にいいんじゃない?」

 にやりと笑うチェシャ。俺はチェシャの肩をがしりと掴んだ。

「な、なら俺と付き合っ――」
「おい、クソ猫!」
「ん? あ、帽子屋」
「あ、帽子屋じゃねえだろうが。テメェ、ふらふらとしてんじゃねえぞ!」

 がくり。帽子屋の登場で、俺の勢いは風船のようにしゅるしゅると萎んでいく。チェシャの興味はもう俺から帽子屋に移ったようで、ニヤニヤと笑いながら帽子屋と話している。帽子屋も帽子屋で俺なんか眼中にない。
 そっとチェシャの肩から手を下ろす。今日はいけると思ったのに、結局、だめだった。俺は二人の言い合いを耳にしながら深い溜息を吐いた。







fin.

かわいそう……。
ということでリクエストありがとうございました!

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