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「後悔? そうだね、後悔してるのかも」

 後悔。そんなもの、チェシャには似合わない。ずしりとチェシャの言葉が重くのし掛かる。

「でもさ、向こうに残っていたら…それはそれで後悔したと思うんだよね」
「そ、うか」
「僕のいるべきところはここだしね」

 そう言って笑うチェシャがなんだか泣きそうな顔に見えて――気がつけば俺の腕の中には華奢な体がすっぽりと入っていた。

「痛いよ、ハートのトランプ」

 ぎゅっと力を込めて抱き締めれば、チェシャは感情の読めない声で言った。俺ははっとしてチェシャを解放すると、わたわたと手を動かした。かーっと顔に熱が集まる。

「あ、そ、その」
「僕のこと慰めてくれてるの?」
「え、ま、まあ」

 下心ありありやけど、と心の中で思って苦笑する。

「ふうん」

 そう言って目を細めるチェシャは、見透かしていそうだ。
 チェシャは決して鈍くない。俺の気持ちだって、他の奴らの気持ちだって気づいているに違いない。いつだって必死な俺をのらりくらりといつも躱すチェシャが今、弱っている。これはチャンスだ――俺はごくりと唾を飲み込んだ。


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