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「俺は散歩しとったんや。――チェシャは何を…」
「今答えたばっかりだけど?」
「あ、そ、そか」

 ぼんやりしていてたった今のことが頭から抜けていた。チェシャは変なの、と言って笑う。――変なのはチェシャだ。

「こっち座りなよ」

 チェシャが腰を下ろし、隣を叩く。俺は緊張しながら隣に座った。

「なあ、……あっちのことを思い出しとるんか?」

 訊きたくないと思いつつ、訊いてしまう。これで、違うと否定されればどれだけいいか。――でもチェシャのことだから、否定しても本心は結局わからないだろう。

「どうしてそう思うの?」
「……戻ってきてから様子がおかしいやんか」
「ハートのトランプってば、僕のことそんなに見てるの?」

 にや、とチェシャが口角を上げて笑う。その瞬間いつものチェシャに戻ってどきんと心臓が脈打つ。

「あ、いや、そ、その」

 途端にどもる俺の口。チェシャがくすりと笑った。そして再び空を見上げる。

「僕さ、わからないんだよね。本当にこれで良かったか――ってさ」
「……もしかして、後悔しとるんか?」

 心臓が別の意味で脈打つ。絞り出すようにして言葉を口にした。

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