俺を見て

詰々番外編/ハートのトランプ脱ヘタレ!?/チェシャ受け/微シリアス/未来設定でチェシャが戻ってきてからの話


 その日、俺は城の周りを散歩していた。視界の端に見慣れた赤い髪と猫耳の後ろ姿が目に入り、はっと顔を向ける。

「あ、チェシャ……」

 決して小さくはない声だったが、チェシャの耳には届かなかったみたいだ。ぼんやりと空を見上げているチェシャにずきりと胸が痛くなった。チェシャがここ――ワンダーランドに帰ってきてから、ずっとこの調子だ。そんなに人間界は心地よかったのだろうか。それとも、誰か好きな人が……?

「チェシャ!」

 自分の考えを消し去るように声を大きくして再度チェシャを呼ぶ。 

「ん?」

 チェシャが振り返って目を丸くした。漸くこっちを向いてくれたことにほっと息を吐く。

「やあ、ハートのトランプ」

 そうやって笑うけど、やはり元気はないようだ。

「……何しとるんや? そんなとこで」
「んー? 別に何も? ハートのトランプこそ、どうしたの?」

 小さく首を傾げるチェシャは可愛いが――見ていられなかった。

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