12

 今の石を見て、試そうという気はまったくなくなった。私がここの住人になってしまったということがじくじくと私の体の中に染み渡る。

「チェシャはどうして笑ってるの?」

 ここから出ようとすれば怪我をするなんて、怖くないのだろうか。何でそんなに笑っているのだろうか。

「楽しいから」

 チェシャはぽつりと言って、にいっと口角を上げた。








 あれから。私は結局ここでの生活を強いられ、変わり者たちと暮らすことになった。初めは帽子屋や、三月ウサギのような怖い男たちに怯えていたけど、彼らは私を脅すだけで、危害を加えてくることはなかった。
 なんでもルールがあるらしい。法のようなものだ。名を有した役持ちには危害を加えてはいけない――というようなもの。

「アリス」
「チェシャ」
「なにぼおっとしてるの?」

 チェシャは相も変わらず笑みを浮かべている。最初チェシャはいろんな人に好かれているなと思っていたけど、甘かった。いろんな人どころではなく、皆に愛されている。
 かくいう私も。チェシャのことは好きだ。恋愛感情とはちょっと違うけれど。私は――。

「ちょっと、昔のことを思い出していたの」

 私は、この気まぐれな猫のハートを誰が射止めるのか、とても楽しみである。








fin.

キャラが出しきれていません!そしてだらだらとすみませんでした!
これからも同じ穴の狢を宜しくお願いいたします。

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