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「ここだよ」
お茶会のあと、チェシャに木まで連れて行ってもらった。最初チェシャと出会った木だ。チェシャはくるりと私の方に体を向けると、肩を竦めた。
「ねえ、やめない?」
「やめないって……」
「アリスは帰れないよ」
帰りたい気持ちが薄れたとは言え―――そこまではっきり言われるとむっとする。
「試してみないと分からない」
「やめた方がいいと思うけどなあ」
チェシャは首を傾げて私を見た。私はむすりとしたままチェシャの言葉を無視して隣を通りすぎる。
「アリス」
チェシャはここにきて、初めて困ったような顔を浮かべた。その表情が珍しくて、私は目を丸くした。
「うーん、僕、アリスには怪我してほしくないんだよね」
「……怪我?」
「ちょっと待って」
チェシャは私の腕を掴んだまま何かを拾い上げる。その手の中には大きめの石があった。それを何度か手の平で遊ぶように転がすと、それを木の向こう――私が行こうとした方へ投げ飛ばした。普通に落ちると思われたその石は、何もないところでがつんと音を立て、地面に落ちた。まるで壁に当たったかのようだ。だけど、壁なんてものはない。広々とした空間が広がっている。
私は視線を落とした。大きめの石からは何故か煙が出ている。ぞっとして一歩後ずさった。
「な、なに、これ」
「結界みたいなものが貼ってあってね。出ようとしたらこうなっちゃうんだよ」
チェシャは言葉を付け足した。「ここの住人はね」
私の足は力を無くし、へなへなと地面に座り込む。チェシャの顔はもうあの困ったようなものではなくて、楽しそうに笑っていた。
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