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「俺はヤマネだ。……まあ、宜しく」
「あ、宜しくお願いします……」
「ヤマネ、なんかアリスに優しいよね。もしかして好きになっちゃった?」

 「なんでだよ」ヤマネは呆れたように溜息を吐いた。……私も別にそんな感じには見えなかったけど、…でもそう言われるとどきっとする。ヤマネは視線を下に向けた。私はその視線を追って、はっとする。チェシャは私の腕を掴んだままだ。そろりと視線を上げてヤマネの顔を窺うと、なんとなく不機嫌のように見えた。
 いやまさか。私は嫌な予感に顔を引き攣らせた。チェシャは相変わらずニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべている。

「ねぇ、ヤマネも一緒にお茶しようよ」
「別にいいけど…こいつもか?」

 ヤマネは私を見下ろす。いいえと私が答える前にチェシャがそうだよと言って頷いてしまった。

「ハートのトランプも呼んだからさ。あと女王ね。今お菓子持ってきてもらってるんだ」
「ふうん…」

 え。ちょっと待って。女王様にお菓子を持ってきてもらってるの? 女王様と親しげだったし、チェシャってほんとにどういう立場なんだろう。…というか今更だけど王様はいないのかな。女王様が男の人だから王様は女の人だったりして。ちゃんとした女性に会いたいけど、いないよりはその方がいいな。
 なんてことを思っていると、後ろから声がかかった。

「ああ、戻ってきていたんですか」

 先ほども聞いた声に振り向くと、女王様が大きな籠を持って立っていた。その籠の中には美味しそうなクッキーやマカロンが入っている。チェシャの目が輝いた。それを見て、なんだか可愛いなと思ってしまった。

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