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 ……いや、そんなことを考えているようには見えない。私は帽子屋がいなくなったので、これなら木へ向かえるのではないかと希望が出てくる。

「ねぇ、チェシャ。私、あなたと会った木まで行きたいんだけど……」
「なんで? あ、もしかしてアリスも木に登るのが好きとか? 僕良い木を知ってるんだ、後で案内するよ」
「いや、そんなんじゃ…」

 木なんて登ったことない。私は慌てて首を振る。だけどチェシャは興味なさげに返事をした。元々木に登りたいなんて思ってないことを分かっていたように思える。――チェシャってよく分からない。

「じゃあ行こうか」

 チェシャはにこりと笑うと私の腕を引っ張る。私は溜息を吐いた。






「遅かったな」

 再び女王様のもとへ行くと、女王様の他に見知らぬ男の人がいた。また男の人…。ここに来てから女の人に出会っていないなぁ。――……というか、この人も小さいけれど耳が生えている。

「あ、ヤマネ、いたんだ」
「いたんだじゃねえよ。お前、今日俺に用事があるとか言ってただろ」
「そうだっけ?」

 ヤマネ…… あっ! さっきの帽子屋とチェシャの会話で出た名前だ。帽子屋のように怖くはないけど、ヤマネも中々目付きが悪いなと思った。

「そうだっけってなぁ…。で、そいつ」

 ちらりとヤマネがチェシャの後ろにいる私に視線を向ける。びくりとすると、チェシャが肩を竦めた。

「ヤマネ、アリス睨まないでよ」
「睨んでねえよ」

 呆れたように言うと、私から視線を外さないまま口にする。「そいつが人間界から来たやつだろ」

「そうだよ」
「ふーん……お前も大変だな、こんな変な奴ばっかのところに来て」
「酷いなあ」

 ちょっと感動。ここに来て一番まともなような気がする。まあまともだと思ったのはハートのトランプと女王様もだけど……というか、チェシャと帽子屋が凄く変わり者だと思う。

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