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 私はチェシャと出会ったあの木まで行く予定だった。行こうとしたら帽子屋に銃を向けられチェシャが現れすっかり忘れていた。

「おい、猫。もうその女はどうでもいいだろ」
「どうでも良くないよ。アリスは今から僕とお茶するんだ」
「えっ?」

 何を言っているの? そんな約束なんてしていない。私は帰らなきゃならないのに。

「女王も待ってるよ」
「い、いや、私は……」

 首を横に振って拒否するけど、チェシャは私の腕を掴んだ。……振り払えそうにない。私は諦めて体の力を抜いた。この場に帽子屋と二人残されても困る。それならあの女王様とチェシャと一緒にいた方が安全な気がする。

「……分かった」
「帽子屋はどうする?」
「行くわけねぇだろーが。あんなカマ野郎のいる場所の空気なんて吸いたかないね」
「だと思った」

 あ、来ないんだ。ほっとして息を吐く。視線を感じ帽子屋を見上げると帽子の下から私を睨んでいた。――怖い。私は再び体を固まらせた。

「チッ、じゃあな」

 今私を見て舌打ちしたよね…。帽子屋は私たちに背を向けると、歩いていく。その背中を見送っていると、チェシャが私の腕を引っ張った。

「チェシャは…今の人と仲が良いの?」
「帽子屋? さあ、どうだろうね。アリスは近づかない方がいいよ。あいつはイカレてるからね」

 頼まれてもあの人には近づかないと思う。というか、イカレ具合はチェシャも中々だと思うのだけど。……でも、もしかしてお茶って、私を助けるために言ってくれた?

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