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「この子はアリスっていうんだ。今日から僕たちの仲間だよ」
「なんだ殺せねえのか。つまんねえな。――まあいい。俺はクソ猫、テメェを探してんだ」

 じろりと冷めた目で私を一瞥すると、今度はチェシャを見て口角を上げる。どう見ても悪役の笑い方だ。

「ええ? 僕に用事なのかな?」

 チェシャが笑って首を傾げる。くっと喉を鳴らして帽子屋が笑ったかと思うと――突然チェシャの胸倉を掴み、自分に引き寄せた。

「笑ってんじゃねえ殺すぞ」

 恐ろしい悪魔のような声に私が竦み上がる。でもチェシャは平然としていた。そんなチェシャの首元にがぶりと何かが噛みついた。何かって、この場には帽子屋と私とチェシャしかいないわけで、当然噛みついたのは……帽子屋だ。私は口をぽかんと開けて帽子屋たちを見る。

「まァたあのクソネズミとこそこそとやってたみてぇじゃねえか。あ? いつになったらテメェは分かるんだ」
「いったいなあ、もう」

 ……チェシャの声は軽い。痛いなあ、もう…じゃないでしょ。もっと何かあるでしょ!? 私は声も出なかった。

「だって僕、ヤマネのことが好きなんだ」

 ……ヤマネ、というのは誰なんだろう。なんだか今の状況、修羅場のように見えるんだけど…。帽子屋はチェシャのことが好きなんだろうか? そして、チェシャは…そのヤマネってネズミ? のことが好きなのかな。なんだかちょっとショックに感じる私がいた。ヤマネさんはどんなネズミなんだろう。

「よく言うぜ。テメェは誰も好きなんかじゃねえだろうが」
「ありゃ、バレちゃった?」

 ……え、そうなの?
 私はもう何が何だかわからなかった。

「アリス、百面相なんかしちゃってどうかした?」
「……ひゃ、百面相って、誰のせいだと…」
「ん? 誰?」

 ニヤ、とチェシャが笑う。質の悪い猫だ。私はぷいっと顔をそらした。そして思い出す。私が今何をするべきなのかを。

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