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 変な夢だ。私は近寄ってくる女王様――と呼ばれる男の人を見つめる。異様だけど、そこまで気にならないのは彼の顔立ちがとても整っているからかもしれない。そういえばさっきのハートのトランプも美形だったし、チェシャもだし…私ってそんなに面食いだったのかな。

「人間界?」
「彼女のような人間が住む正解ですよ。チェシャや三月ウサギのような耳と尻尾が生えいる者はいない世界ですね」

「え、そうなの?」

 チェシャがちらりと私を見た。頷くと、へえ、と笑う。興味を引いたようだ。……それにしても、改めて説明されると、なんだか変な気分だ。

「ああ、だから僕の耳に驚いていたんだね」

 「アリスにも生えてたら可愛いのになあ」そんなことを言って笑うから、私は顔が熱くなった。私はチェシャの笑みに弱いということに今気がついた。

「――アリス」
「えっ、あ、はい…」

 女王様に声をかけられ、私は姿勢を正した。さすが、上に立つ者なだけあって、オーラというか、威圧感が凄い。

「どうやってここへ来たかお分かりですか」
「ここへ、というのは……」
「ワンダーランド」

 「ここの名前です」女王様は付け加えて言った。私はワンダーランドと小さく呟いて、頭に入れる。…ここは、ワンダーランドというのか。
 私は静かに首を振った。ウサギを追いかけていたらいつの間にかいたのだ。

「なるほど…」

 女王様は静かに目を閉じる。そして再び私の名を呼んだ。

「は、はい」
「あなたは元の世界へは帰れません」
「……え?」

 元の世界。つまり人間界ということ? ……え、帰れないって。ええっ!?

「僕たち、ここから出たこととかないからさ。人間界の行き方とかも分かんないんだよ。つまりアリスは僕たちと一緒に暮らすってことだね。嬉しいな」
「…チェシャの言う通りです。見知らぬ世界で不安でしょうが、ここは良いところですよ。――アリス、あなたを歓迎します」
「まっ、待って。私、そんなこと言われても……あ、いや、でも、そっか。これって夢だから……」
「何言ってるの、アリス。夢なんかじゃないよ」

 にいっと口を三日月にしたチェシャが、私に囁いた。私の手は自然と頬に伸びて、引っ張ったけど、夢は覚めることはなかった。

「ほらね?」

 猫が可愛らしく首を傾げてくすりと笑った。

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