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「どこに連れて行ってくれるの?」
「秘密」
「教えてくれないの?」
「知っちゃったら面白くないじゃないか」

 そう言ってけらけらと笑うチェシャに、本当について行って大丈夫なのかなと不安になる。夢とはいえ、こんな怪しい生き物について行くなんて。

「アリス、何変な顔してるの?」
「へっ、変って!」
「アリスは笑ってた方が可愛いよ」

 ね、と言われ、私はどきっとする。さっきと同じトーンで言われたので、チェシャが本気で言っていないことが分かった。…からかわれてるなあ、私。でもなんか嫌とかじゃなくて、なんだろう。変な気持ちだ。…もしかして私の男の趣味って、こんな感じの人なの? ちょっと微妙な心境だ。

「あ、アリス。ここだよ」
「え? ――わあ」

 思わず感嘆の声が零れる。私の目の前には大きくて可愛いお城があった。ここに住んでいるのは王様や女王様なんだろうか。

「じゃ、入るよ」
「うん……え!? は、入れるの!?」
「うん、女王に紹介するよ!」

 そんなに気軽に入って良い建物なのかと驚いていると、チェシャからとんでもない言葉が飛び出してきた。女王に紹介? チェシャって何者なの? もしかしてすっごく偉い猫男とか……。
 心の準備もできていないままぐいぐい引っ張られ、混乱する私。そこで、誰かに話しかけられた。

「チェシャ! なっ、何しとるん?」
「あ、ハートのトランプ」

 話しかけてきたのは言葉に訛りのある褐色の――人間だ。普通の人間もいるらしい。褐色の男の顔は……なんだか赤いように思える。それに、声も上擦っているような。……んん? 私は首を傾げた。

「アリスを女王に紹介しようと思ってね」
「……アリス?」

 あ。声が普通になった…。と思ったら急にじろりと私の方に目が向いて、びくりとする。顔色も普通だ。

「……なんや、誰なん、そいつは」
「アリスだよ」
「見たことない。大丈夫なんか?」

 警戒されている。……でも見たところお城の警備をしている人のようだし、これが普通だよね。

「大丈夫大丈夫。あ、そうだ。ねえ、ハートのトランプ。今度僕の家でお茶でもどうかな?」
「えっ!? い、行ってもいいんか!?」

 ハートのトランプの顔がぼんっと音を立てて赤くなる。そして目がきらきらと輝いていて――まるで恋する乙女のようだと思った。……あ、あれ? ええっと、チェシャもハートのトランプも、男…だよね? ……うん、考えるのは止めよう。

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