▼ 揺れるスープのように
本編より未来設定/会計×チェシャ猫/ちょっと甘め
チェシャ猫の性格がいつもより優しいです。あと短いです。
宜しい方はどうぞ!
「……あのさあ、ちょっといい?」
僕は顔を上げる。食事中だったので渋々だ。
「なあに」
口に含んでいたものを飲み込み、首を傾げる。会計さんは僕をちらちらと見ながら、ええと、と言いよどむ。言葉を選んでいるようだった。僕は待ちきれなくて、再び食事に視線を落とす。あ、と慌てたような声が聞こえた。
「ご、ごめん、悪かったって。話聞いてよ」
僕は一度睨むように会計さんを見る。怯んだ会計さんににっこりと笑みを向けると、早く、と急かした。
「…お前ってさ、会長と…その、仲、いいよね」
「うん、そうだね」
向こうがどう思っているかは別だけど。好きだからねと続けて答えると、会計さんはむっすりとした。
「……俺は?」
「うーん」
「悩むのかよ!?」
会計さんのショックを受けたような顔に噴き出す。りゅーいちくんみたいに分かりやすいなあ。
「ま、好きかもね」
「ま、ってなんだよ。俺は真剣に…」
尻すぼみになっていき、遂には口を閉ざしてしまった。その顔はほんのりと赤い。静まり返る部屋の中。参ったなあ。こういう雰囲気は、ちょっと苦手だ。会計さんの想いも。……もともと僕はここの住人ではないし。
何だかちょっとだけ情が移ってしまったらしくて、最近こういうことに触れたくないんだよね。相手が僕のことを嫌っていたらいいんだけど、といっても僕のことを想ってくれている人たちに罪悪感を覚えてしまうからそれも中々できない。
「会計さんもこれ食べない?」
話題を変えようと、スプーンでスープを掬い、差し出すと会計さんはすぐに不機嫌になった。スプーンを持っている方の手首を乱暴に掴む。揺れてスープが零れてしまった。あーあ、床が汚れちゃった。まあここ、会計さんの部屋だから僕は全然気にしないけど。
「手、放してよ」
「放さねえ。俺は真剣に言ってるんだから、お前も真剣に聞けよ」
「真剣にって、何を? 僕別に何も言われてないけど」
「好き」
え、と驚くほど間抜けな声が自分の口から出た。
「好きだから他の奴と仲良くしないで」
会計さんが真っ直ぐに僕を見つめてくる。手からするりとスプーンが落ちて、音が鳴ることで我に返る。早く、何か言わないと。笑わないと。そう思うのに、体は熱くなるばかりだった。会計さんが意外そうに目を見開く。
「その反応は…期待、していいわけ?」
「煩いなあ、僕今食事中だから放し――」
て、という言葉は会計さんの口の中に吸い込まれていった。ちゅ、という音を立てて離れて行く口。頬を赤くして笑う会計さんの姿。
ああ、ほんと、参っちゃうな。
僕は視線を落とした。スープはすっかり冷え切っていた。
fin.
アンケートやコメントを見る限り、詰々が人気らしいので書いてみました。どうでしょうか!
他のキャラが良かった方は申し訳ありません。ちょっとこの二人を書きたかったもので。
チェシャが今までで一番デレているような気がしますね!
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