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 くすくすと笑う男――連のこともチェシャ猫はあまり得意ではなかった。人を馬鹿にしたような態度と顔。イヤミの通じない男。所謂、同族嫌悪である。

「僕になにか用でもあるの」
「いいや。お前に会いたかったんだ」

 チェシャ猫の肩に馴れ馴れしく回し、耳元で囁く。耳が弱いチェシャ猫の肩は小さく跳ねた。こうやって人の嫌がることをやるところもチェシャ猫と似ていた。

「もう会ったんだからいいよね? 部屋に入りたいんだけど」
「そうだな。部屋でゆっくり話そう」
「レンは入れないからね」
「酷いな」

 連は肩を竦めた。チェシャ猫は、このまま入ろうとしたら無理矢理でも入ってきそうだと考え、仕方なく連の話に付き合うことにした。部屋まで入ってこられたら追いだすのが難しい。

「ちょっとだけ、付き合ってあげるよ」

 に、と笑うチェシャ猫に、連は溜息を吐いて苦笑した。

「チェシャはホント、罪な男だよなあ」
「はあ?」

 チェシャ猫は冷めたところがある上に扱いにくいが、時々気を許したり顔が優しくなる。きっと本人は気づいていないんだろうと思いながら、連はくすりと笑った。

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