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「漸く二人になれたな」
「気持ち悪いこっち来ないで」

 あくどい顔をしてチェシャ猫の横に腰掛ける風紀委員長はチェシャ猫の肩に腕を回した。チェシャ猫は風紀委員長の顔を睨みつける。
 風紀委員長と帽子屋は似ている。しかし帽子屋が平気な理由は、付き合いの長さだけが関係しているのではない。帽子屋はすぐに暴力を振るう。対して、風紀委員長は違う――と言うと御幣があるが、チェシャ猫に暴力を振るうことはあまりない。そのかわり、自分の気持ちを隠そうともせず、じわじわ追い詰めながら想いを告げるのだ。チェシャ猫はこれが嫌だった。自分の方が優位に立ちたいのに、風紀委員長の場合うまくいかない。彼が会長や隆一、他の人のように自分の行動に一喜一憂したり、慌てふためいたりしたらいいんだけれど。チェシャ猫はそう思った。

「……それで、僕を呼んだ理由は? もう帰りたいんだけど」
「急かすなよ。まだ来たばっかりだろ」
「帰りたいんだってば」

 不機嫌を隠そうともしないチェシャ猫に風紀委員長の目は細くなる。自分だけに向けられる憎たらしい笑み以外の表情。まったく懐こうとしないチェシャ猫に風紀委員長は楽しそうに笑った。

「じゃあ本題に入るけど」
「うん、早く済ませて。あと腕、邪魔」
「お前はまだあのクソバ会長にちょっかいかけてるらしいな」

 忌々しげに吐き捨てる風紀委員長。チェシャ猫は自分の言葉を無視されたことにむっとしたが、その言葉に、にやっとした。

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