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 携帯に視線を落としていたハートのトランプは、ちらりとチェシャ猫を窺い見る。その視線の意図をすばやく理解したチェシャ猫はそっけなく言い放つ。

「僕、行かないよ」
「ええ! た、頼む。ちょっとでええから!」

 届いたメールには、風紀室にチェシャ猫を連れてこいとのことだった。何も言わない内から断られ、ハートのトランプは慌てて両手を合わせて頼む。

「やだ」
「俺委員長に殺されるわ!」
「知らないよ」

 にっこりと笑顔で切り捨てるチェシャ猫。チェシャ猫以外のこの場にいる皆がハートのトランプに同情した。チェシャ猫のこともそうだが、風紀委員長に半殺しにされる彼の未来が見えた。

「じゃあ、そういうことで」

 ここに長居するのは良くない。傷の手当てがまだだったが、もうどうでもいいと感じていた。
 チェシャ猫は口角を上げる。保健室から去ろうとドアに手をかけ――ようとした瞬間、がらりと開く保健室のドア。

「よお、遅いから迎えに来てやったぜ」

 チェシャ猫の口がひくりと引き攣る。メールが届いてからまだ一分か二分だ。ということは、最初からハートのトランプに期待していなかったのだろう。なにが、遅いから、だ。チェシャ猫は心の中で舌打ちをした。

「逃がさねえよ」

 く、と笑う凶悪な男。帽子屋もイカレているが、この男も大概である。手首を強く掴まれ、チェシャ猫は一瞬だけ顔を歪める。
 そのままチェシャ猫を連れて行こうとする風紀委員長の背に、制止の声がかかった。

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