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「気持ちはようわかる」
「お前はまだいいじゃん…。俺の扱い酷くね…」
「あいつに嫌がらせばっかやってたからだろ」
「うっそれは…」

 隆一の言葉に茶髪の男は言葉を詰まらせる。実は茶髪の男、熙――生徒会会計をしている――はチェシャ猫を最初嫌っていた。格好を馬鹿にしたり、殴ろうとしたりしていたのである。
 がっくりと肩を落とした熙をちらりと一瞥したチェシャ猫は笑みを浮かべる。チェシャ猫は、熙にされたことなどまったく気にしていなかった。そもそも、殴られたのではなく、殴られそうになっただけであり、熙のへなちょこパンチなど当たるわけがなかった。仮に当たったとしても、痛くはないであろうが。
 チェシャ猫は熙のことを嫌っていない。むしろ、気に入っている。あの扱いは愛情表現なのである。

「ねえアリス――」
「げえっ」

 チェシャ猫がアリスに何かを話そうとした時、ハートのトランプが顔を顰めて声を上げる。チェシャ猫は嫌な予感がしてハートのトランプの方に顔を向ける。

「委員長からや」

 チェシャ猫は、うわ、と顔を引き攣らせた。チェシャ猫にも苦手な人はいる。それが風紀委員長だった。風紀を乱す者としても目をつけられているだけでなく、色々な意味で狙われていた。チェシャ猫は彼の雰囲気がどうにも苦手だった。


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