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「りゅーいちくんとハートのトランプはなんでここに?」
「こいつが問題起こしよってな」
「俺は喧嘩を買っただけだ」
「お前はやりすぎや」

 溜息を吐いて、褐色の男――ハートのトランプは隆一の手を見る。殴りすぎて皮が剥けていた。顔にも少し掠り傷がある。

「アリスはいないの?」
「ああ、今席外しとるみたいや」
「ふうん」

 チェシャ猫はベッドに腰掛ける。保健室にはアリスという可愛らしい保険委員がいる。チェシャ猫は彼がお気に入りであるため、よく保健室に足を運んでいた。
 少しして保健室のドアが開き、人が入ってきた。

「ねえ、どーお? 俺と一晩」
「もう、やめてください!」

 アリスと、茶髪のチャラい男だった。チェシャ猫はすぐさま立ち上がると、アリスの肩に回った腕を落として抱き締める。

「わわ!? チェシャ!?」
「げっ! な、なんでここに!?」

 二人の焦った声にチェシャ猫はにんまりと笑みを浮かべる。「ちがう、今のは違うからね! 誤解だから!」茶髪の男の言葉はチェシャ猫の耳には入らなかった。

「アリス、今日も可愛いね」
「あ、ありがとう」
「えっ俺のこと無視かよ…!?」

 ショックを受けている茶髪の男の肩に手が乗った。

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