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「瞳、やめなって」

 愛が呆れた顔で溜息を吐いて、瞳の腕を掴む。瞳は頬を膨らませて、愛を睨む。

「大樹、困ってるじゃん。あんたは大樹を困らせたいわけ?」
「…そんなわけない」
「じゃあ素直に言うこと聞きな。ただ話するだけなんだからさ。あんまりしつこくしてると、大樹だっていつか堪忍袋の緒が切れるよ」
「えっ…」

 瞳はショックを受けたような顔で俺を見上げた。流石にキレることはないだろうが、ここで否定したらせっかくの愛の説得が無駄になる。俺は苦笑した。瞳はぐしゃりと顔を歪める。俺の胸は罪悪感でずきずきと痛い。

「…私帰る、だから」

 縋るような視線に、安心させようと笑いかける。瞳はほっとした表情をした。

「また明日な」
「……うん」

 「愛と高野も」これを聞いて、二人は声を揃えてまた明日と言った。
















「…やっと行ったわね」

 三人の背が見えなくなった途端、笑顔を崩す真由ちゃん。うんざりとした表情で呟いた。

「…ごめん」
「なんでアンタが謝んのよ。うざいからその顔止めてくんない」
「ご、ごめん」

 反射的に謝ってしまう。そんな俺をぎろりと睨んだ。

「…こんなことどうでもいいのよ。本題に入らせて貰うわ」
「優治先輩の話だよな? 優治先輩がどうかした?」
「あぁ? テメェも知ってんだろうがよ、優治お兄様のお見合いのこと」
「え、あ、ああ…聞いたけど、それが?」

 不意打ちだ。やっぱり怖い。せっかくの可愛い顔が恐ろしいことになっている。
「それがって、テメェなんとも思わねえのか?」
「それは…気になるけど、どうしようもないだろ」

 苦笑して言うと、不愉快そうな顔で舌打ちした。更に真由ちゃんは脛を蹴ってきた。

「いっ…!」

 いってぇ! 先端が尖った靴が脛に刺さった!

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