真由現る

「ヒロくん、帰ろ」
「ああ」

 瞳が鞄を肩にかけて近づいて来た。俺はそれを一瞥して鞄に教科書類を急いで詰め込む。その時、窓の近くにいた数人の男子が騒ぎ出した。

「おい、あれ誰だ?」
「すげー可愛くね!?」
「誰か待ってんのかなあ…」

 どうやら校門のところに誰かが立っているようだ。俺は少し気になって、鞄を肩にかけながら窓に近づく。そしてぎょっとする。

「真由ちゃん!?」
「え、おい大樹あの子知ってんの!?」
「まさか彼女とか言うんじゃないだろうな!?」

 隣に来た瞳がじろりと俺を睨む。俺は苦笑しながら否定した。

「違うって。優治先輩――生徒会長さんの従兄妹だよ」
「従兄妹!? 会長の!?」

 数人は顔を見合わせて、がっくりと肩を落とす。「会長の従兄妹に手なんて出したら…殺される」
 優治先輩というより…真由ちゃんにだな。あんな見た目お嬢様な美少女がかなり口が悪いなんて思いもしないだろうなあ…。俺もそうだった。夢は壊さないでおこう。
 それにしても。真由ちゃんは何しにここへ? 優治先輩に会いに来たんだろうか…。そんなことを思いながらじっと見つめていると、真由ちゃんが顔を上げた。そしてばちりと――視線が合った気がした。どきりと心臓が跳ねる。

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