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「どうですか、それ」
「ああ、なかなかだな。もう少しデカいといいんだが」
「分かります、ちょっと小さいですよね」

 少し眉を顰めた先輩に苦笑する。女性でも手軽に食べられるサイズなので、俺たちには物足りない。俺は弁堂箱を持って先輩に差し出した。

「あの、良かったら何か一ついかがですか?」

 すると、驚いたように目を開く。「いいのか?」俺は頷いた。

「悪いな、じゃあ…唐揚げを貰うか」

 取りやすいように更に弁堂箱を近づけるが、先輩は取る素振りを見せない。首を傾げると、先輩はにやりと笑った。

「お前が食べさせてくれんだろ?」
「え!?」

 た、食べさせ…!? なんで俺が!?
 目を見開き硬直する俺に、先輩がコロッケパンを持った手を動かした。

「俺は箸持ってねえからな。あと手も塞がってる」
「じゃ、じゃあコロッケパンを食べ終わった後、箸渡すんで…」
「今食べたいんだよ」

 嘘だ。俺はニヤニヤしている優治先輩を見ながら思った。絶対にからかってるよこの人。

「…わ、分かりました」

 口を開けてくださいというと、優治先輩が大人しく口を開けた。何だか雛に餌をやる親鳥のような気分だ。いや違うな。獰猛な動物に餌をやる飼育員だな。
 唐揚げを掴むと、恐る恐る口元へ持っていく。緊張して少し手が震えた。男同士でやっていること以外は何の問題もなく「あーん」を終えて、俺はふうと息を吐く。優治先輩は満足そうに笑った。

「…うん。旨いな」
「本当ですか? そういっていただけると、母さんも喜びます」

 舌が肥えている先輩に言われると、何だか嬉しい。照れながら笑うと、優治先輩も目を細めて笑い、そして、コロッケパンをずいと近づけてきた。

「……えっと」

 これはもしや…。

「ほら、礼だ。食えよ」
「いや、俺は…」

 断ろうとするが、先輩が無言の圧力をかけてくる。俺は渋々「ありがとうございます…」と言ってコロッケパンに齧り付いた。
 

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