昼食

 瞳の気持ちは嬉しいけど…俺は…。

「……、」

 でも、先輩は男だ。もし優治先輩と付き合うことになっても、先輩の親は? 俺の親は? 他にも障害は沢山ある。

「……、…い」

 それに、俺みたいなやつ、すぐに飽きてしまうかもしれない…。俺も、京のようになってしまうのか?

「……おい」

 それは嫌だ。というか、優治先輩と知り合ったことですら奇跡に近い俺が、優治先輩と付き合うことなんて、本当にできるのか? 今きっぱりと諦めた方が――。

「おい!」
「へっ!?」

 がしっと肩を掴まれ、びくりと体が跳ねる。
 慌てて手の持ち主を見ると、訝しげな顔をしていた。

「どうした? 体調悪ぃのか?」
「あっ…いえ」

 俺は笑みを浮かべて、止まっていた手を動かした。さくりと唐揚げがいい音を立てる。
 あの後気まずいまま瞳と一緒に教室へと行き、考え事をしていたらいつの間にか時間が過ぎていて、今こうして優治先輩と昼食を摂っているところだ。優治先輩といるときはちゃんとしてようと思っていたが、無理だったか。
 優治先輩は訝しげな顔のまま口を開く。俺はそれに被せるようにして声を出した。

「そういえば、それ…」

 優治先輩の食べているパンを差す。先週俺が食べていたコロッケパンだ。

「ああ、これか? お前が食べていたから買ってみた」

 ふ、と笑ってコロッケパンを少し持ち上げる。
 ただそれだけなのに、俺の胸はぎゅっと締め付けられた。


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