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 慌てて近寄ろうとすると、ぐいっと腕を引かれ引き止められた。

「おい、愛、放せって」
「やだ」

 むっすりとした顔で俺から視線を外して瞳――いや、優治先輩か…? あるいは二人共かもしれない。愛は真剣な顔で見つめる。いったい、何を考えているんだろう。

「……愛?」
「…なにあれ」

 愛の大きな目が驚いたように瞠った。なんだろうと思う前に、疑問は消える。

「おい! ゆーじ!」

 ……ああ、京か…。
 って、京!? うわっ、優治先輩に近寄って行ってる! あそこには瞳もいるんだぞ…どうするかな。

「キッモ」

 うげえ、と顔を顰める。その反応にあれ? と首を傾げた。

「愛、京のこと見たことあるだろ?」

 それなのに、どうして今初めて見たような反応なんだ。俺の言葉に愛は眉をくいっと上げた。

「はあ? いつ?」
「いつって…結構前だけど、教室に来ただろ。えっと、ほら、優治先輩が教室に来て一緒に飯食った時」
「そうだったっけ」

 考える素振りも見せない愛は、興味なさげに呟いた。視線は未だ京に注がれている。

「不潔。キモい。しかも声がでかい。全部無理。視界に入れたくない」

 愛、お前バッサリ言うな…。 

「ゆーじ、なんでおれに会いに来てくんねーんだよ!」
「…ああ?」

 優治先輩は不愉快そうに顔を顰めた。瞳は威嚇するように京を睨んでいる。それがいけなかったのか、京は瞳を視界に入れて、大声を出した。

「おまえ! なんでおれのゆーじと!」

 …いつ、優治先輩がお前のものになったんだ。ムカムカとした気持ちが胸を占める。ていうか、こんな人の多いところで何を言ってるんだ…。ひそひそと囁き合っている人たちを見ながら溜息を吐いた。

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