認めない


「あ、あの」

 恐らく先輩は俺が真由ちゃんを好きになったんじゃないかと思っている。俺は否定しようとしたが、それは遮られた。

「あいつは猫かぶりが凄いんだよ。俺は知ってる、あいつの本性を」

 ……え。…ま、真由ちゃん。バレてるよ、本人に。俺は苦笑して先輩を見上げた。

「先輩、誤解です」
「あ?」
「真由ちゃんのこと…」

 優治先輩は数秒固まった後、ホッとしたように笑った。その顔にドキリとする。嬉しそう、だ。どういう意味でホッとしたんだろう。真由ちゃんのことを好きだったらどうしよう、俺はそこまで考えて考えを振り払うように頭を振った。

「ど、どうした?」
「いえ、なんでもありません」

 真由ちゃんのこと、見合いのこと、そして、俺の気持ちのこと。今は全部忘れて、楽しもう。















 ――翌日。

「ひーろき! おはよ!」
「うわっ!?」

 ぼーっと歩いていると背中をドン、と押された。吃驚して声を上げながら振り返ると、笑顔を浮かべた愛が立っていた。

「よっ!」
「普通に声かけろよ」
「やだ」

 ふふんと笑う愛に溜息を吐いて歩き出す。隣に愛が並んで、そういえば、と声を漏らした。

「何か機嫌良いね」

 ぴくりと手が反応する。俺は動揺を悟られないように目線をずらした。

「そうか?」
「うん、……ねえ、何があったの?」
「いや、別にないって」

 愛は会長が好きじゃないから、俺が会長と遊んで機嫌がいいなんて知ったら…。それに、愛は鋭い。優治先輩が気になってることがバレそうで少し怖い。

「あ、瞳だ」

 愛がポツリと言う。確かに数十メートル先に瞳がいる。――が、瞳の前に立っている人を見てぎょっと目を見開いた。

「ゆ、優治先輩!?」

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