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「……悪いな、こんな話して」
「あ、いえ…」

 もうちょっと見合いの話を聞きたかったけど…あまり聞かれたくなさそうだし、やめておこう。俺が口に出せる話でもないし…。俺は無理矢理笑みを浮かべた。

「あー…そうだ、お前、真由に何も言われなかったか?」
「え?」

 ぎくりとする。恋敵になったなんて、そんなこと言えるはずがない。なにより、真由ちゃんの本性を優治先輩に言った後の真由ちゃんの怒りを想像すると怖くてできない。

「な、何も」
「…本当か?」

 じっと端正な顔に見つめられ、ドキドキと心臓が鳴り出した。そんな顔を見られたくなくて俯く。

「おい、大樹。顔上げろ」

 低くなる先輩の声。きっと顔を顰めているんだろうなあ、と思う。でも顔を上げたら…俺は無言で首を振った。すぐ近くで舌打ちの音がする。びくりとしたと同時に顔を強制的に向けられる。あ、ああああ…まだ、顔の熱が取れてないのに。
 目がバッチリ合うと、先輩は目を見開く。

「お前、顔…」
「あ、いや、あの、その」

 先輩は目を見開いたまま固まっている。そんな顔も格好良いな…やっぱり。

「ま、まさか」

 少し青くなった顔を見て、俺も青くなる。俺の気持ちに気づいたかもしれない。いや、まだちゃんと好きって自覚したわけじゃないけど。ど、どうしよう。バッサリ断られたら。一緒にいられなくなるくらいなら、否定した方がいい。そう思って、俺は口を開いた。

「あの、違いま――」
「駄目だからな!」

 ……え?
 がしっと両肩を掴まれて、真剣な顔をする先輩を訳がわからないまま見上げる。だ、ダメって…もしかして、想うのもダメってことか? それなら相当ショックだ。
 ところが、先輩は予想外の言葉を口にする。

「あいつは駄目だ、やめておけ」

 あいつというのが、真由ちゃんを指していることに気づくのに、時間はかからなかった。

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